アレルギーについては、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの成田雅美氏が「母乳栄養が直接的にアレルギーを減らすというエビデンスはない」と報告。これを受け、改定版では、母乳がアレルギーの抑制に一定の効果があるとの研究結果を削除し、添え書きとして、母乳栄養は「小児期のアレルギー疾患の発症に対する予防効果はない」と明記される。
肥満については、現行では「母乳栄養児のほうが人工栄養児に比べて、肥満となるリスクが低い」と記されていた。だが今回の改定で、「完全母乳」だけが肥満を発症するリスクが低いわけではないとする言葉を加えている。
そして、全体として「母乳だけにこだわらず、必要に応じて育児用ミルクを使う支援も必要である」との一文も追加された。
母乳育児については、世界保健機関(WHO)が推進し、国も後押ししている。厚労省の担当者は、こう話す。
「母乳が基本という指導方針に変わりはありませんが、母乳でも、育児用ミルクとの混合でも、安心して赤ちゃんを育ててもらうためのガイド。この部分をこれまで以上に強く表現した。完全母乳でなければ子どもの健康に支障が出るわけではありません」
今回の改定案を受け、現場で働く専門家の中には戸惑いの声も聞かれる。埼玉県で自治体からの訪問ケアにあたる助産師は言う。
「母乳に関する勉強会で、アレルギーの予防にもなると教えられてきたので、きっぱりと効果は『ない』と言われてしまうと、あれはなんだったのかと思います」
母乳は大事だと考える一方、完全母乳でないことに親たちが過度な不安を抱かぬようにする配慮も必要だと感じる。
「お母さんたちの気持ちを聞きながら、不安感を取り除けるような支援も大事だと思います」
完全母乳にこだわるのではなく、ミルクも必要に応じて取り入れようという機運が高まる中、液体ミルクの販売も始まった。江崎グリコは11日、店頭での販売を開始、明治も4月から全国販売するという。
液体ミルクは、粉ミルクのようにお湯に溶かす必要がなく、そのまま飲めるため外出時や災害時などに非常に便利だ。
子育てには「苦労してこそ母親」という時代錯誤な考え方が付きまといがちだ。今回の改定を呪縛を解く一つのきっかけにしたい。(フリーランス記者・宮本さおり)
※AERA 2019年3月25日号より抜粋