独自の充実サービスを提供し、入居者を大切にする大家が増えている。入居者への熱い思いとともに、「損して得取れ」の計算もばっちりだ。
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「貯金ができる賃貸マンション」をうたい文句に賃貸経営を行うのは、愛知県豊明市の村瀬裕治さん(58)だ。地元で所有する250室の賃貸マンションではさまざまな入居者向けサービスを行っている。
ある物件で提供しているのが、「MBA CLUB」だ。MBAの意味は、M=メルセデス・ベンツ、B=BMW、A=アウディで、それぞれ1台ずつを無料で貸し出している。
駐車場代、ガソリン代、貸し出し費用等はすべてオーナー負担。アイデアが生まれたきっかけは、自身が所有する駐車場を見て回った時だった。
「多くの車は、一日23時間くらい停まったまま。ほとんど乗っていないのに、維持費や保険代、自動車税や車検代がかかるのは大変じゃないか。それが貯金に回せたらきっと喜ばれるはず」
そしてどうせ無料で提供するなら、入居者が持っていない車にしようと調査し、前述の3台を選んだ。
入居者は借りたい旨を連絡し、事務所に鍵を取りにくれば、自由に車を使える。
「先日は入居者から、彼女の実家に結婚のご挨拶へ行くのに使わせてもらいました、とうれしそうに報告されました」
4人分のゴルフバッグも入るため、週末にゴルフで利用する人もいる。足をケガした入居者が、治療中だけオートマチック車にしたいと使っていたケースもあったという。
小さな傷程度なら、オーナー負担で修理もする。そんな太っ腹で赤字にならないかと思ってしまうが、実はコスト削減につながっているという。どういうことなのか。
賃貸経営の大敵は、空室だ。ひとたび空室が出れば賃料が入らないだけでなく、入居者の募集にも多額の費用がかかる。入居者が喜び、物件の人気が上がれば空室率を下げることができる。高級車は経費として計上できるため負担は抑えられる上、家賃滞納のリスクも減ったという。村瀬さんは言う。