男性は名古屋の大学に進学、卒業後「もう少し勉強したい」と願い出て、父は結局、毎年300万円の仕送りを死ぬまでの20年間続けた。男性は40代半ばまで働きもせず、好き勝手に暮らしていた。父の死後は家に戻り、母親と暮らすが、金の無心が続く。母は家を手放し金を作ったが、引っ越し先のマンションも売った。男性は金を手にすれば、盛り場で散財する。
厚生労働省のガイドライン(10年)によれば、「他者と交わらない外出」も新たなひきこもりの概念とされたため、男性も20代からのひきこもりとなる。
支援員は母親に強く迫った。
「お母さんは家を出てください。絶対に戻らないでくださいね。お金を渡しちゃダメですよ」
「わかりました」と家を出ても、母は息子の元に戻ってくる。
「私がいないとダメなの。あの子、気立てがよくて、長男としての意識も高いのよ」
父の遺産相続金250万円を渡す時も、「条件をつけて」と忠告されたのに、母は「いい? これが最後よ」とあっさり渡し、男性は3カ月で使い果たす。
支援員や娘の説得と自身にがんが見つかったことで、母は息子と別れる覚悟を決めた。
男性は今、生活保護を受給してアパートで暮らし、早朝の3時間、宅配便の仕事をしている。
この両親の子育ては、金を渡して終わりと言っていい。息子をコントロールできないだけでなく、自分すらコントロールできない「甘い母」は渡す金が尽き、ようやく息子を手放した。
長年、ひきこもりの支援を続け、8050当事者の支援も行う、NPO法人代表の男性(68)はこう語る。
「50代のひきこもりに共通しているのは、親に振り回されてきたということ。親はそんなつもりはないと言うが、過剰に期待を寄せたり、一つの価値観で道を決めたり、子どもの生き方の多様さを認めてこなかったわけです」
だから、親の敷いた道から外れた時、他に選択肢がなくひきこもらざるを得なかったのか。
中央大学教授の山田昌弘さん(家族社会学)はこう話す。
「親が支えるという構造は、パラサイトシングルと一緒。家族以外に支えるところがないから。すべて、家族で処理してくれというのが日本社会です」
(ライター・黒川祥子)
※「50代ひきこもりのゴールは『就労』ではない “折り返し”に大切なこと」へつづく
※AERA 2019年2月11日号より抜粋