3畳でも昔のオンボロアパートとは違う。狭くても設備も充実した住まいが、コスパとアクセスを重んじる都心の若者の心をつかんでいる。
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部屋に入ると、ピンクの壁紙に目が奪われる。男性の部屋にしては珍しい色合いだが、風変わりなのは、それだけではない。洗濯機置き場に隣接する居室は、わずか3畳。冷蔵庫の上に置かれたテレビのほかは、デスクもベッドも洋服ダンスもない。
治山(はるやま)健太郎さん(25)は、この「狭小住宅」に住んで5カ月になる。池袋駅から電車で約15分。東京都板橋区にあるこの物件の家賃は、4万1千円。新築でシャワー・トイレ別であることを考えると、かなり割安だ。ただし、広さは9平方メートル強。正直、部屋はかなり狭い……。
「家賃と小ぎれいさを重視して、決めました。湯船には入らないので、シャワーブースで十分。ソファと布団を一緒にして使っているので、ベッドも必要ありません。狭いので、掃除の手間もかからなくていいですよ」
大学卒業後はお笑い芸人を目指して養成所に通ったが、このまま続けても芽が出ないと思い、手に職をつけようとウェブデザインの学校に通うことを決意した。ただ、母子家庭で親には頼れない。一人暮らしなら、月に10万円の職業訓練受講給付金を受けられることがわかり、昨年8月に神奈川県茅ケ崎市の実家を離れることにした。最寄り駅から新宿区にある学校までは、乗り換えなしで1本と便利。朝は牛丼店の定食、夜は焼き鳥などを買うことが多く、自炊はしない。そのため、コンロが一つでも問題ないという。
「30歳までにはデザイナーとして独り立ちしたい。貯金をして、将来はカンボジアなどで外国人タレント兼クリエーターとして活動することが目標です」
近年、こうした都心の狭小アパートが若者を中心に人気を集めている。狭小とはいえ、かつてのような「4畳1間、フロ・トイレ共同」というオンボロ木造アパートではない。バス(シャワー)・トイレ別はもちろん、温水洗浄便座、フローリング、モニター付きインターホンなどの設備が充実した築浅物件で、都心の人気駅周辺に多く供給されている。