住宅情報誌「SUUMO(スーモ)」副編集長の田辺貴久さんによると、都心に狭小アパートが増えてきたのは3、4年前。新しくアパートを建てる大家は、できる限り家賃収入を増やしたい。都心の限られた土地だと、部屋を広くするよりも、細かく区切って多くの部屋を作った方が効率がいい。だが、バス・トイレ・洗面台が一緒の3点ユニットはとりわけ女性から敬遠されがちだ。
そこで「狭くてもきれいで快適」という借り手のニーズに応える部屋作りが求められるようになり、居室は狭くてもバス・トイレ別、オートロック、フローリングという「現代版」狭小アパートが増えてきたのだという。
「恵比寿駅の20平方メートル弱の部屋の相場は約10万円だが、狭小物件なら7万円台で借りられる。コスパを重視する若年層には、これがフィットした」
田辺さんによると、若者のライフスタイルの変化も大きいという。シェア文化が浸透し、所有物が少ないため、収納スペースは最小限でいい。スマホやタブレットで動画が見られればテレビは不要、本も電子書籍で読むので本棚も買う必要なし。食事はコンビニや「Uber Eats」などの宅配で済ませ、洗濯も週に数回のコインランドリーで十分。「生活の分散化」が当たり前になった世代は自宅に大きな家具は必要なく、居室も3畳で十分なのだという。
「自宅に必要なものは、寝るスペースとトイレとシャワーくらい。それと、アマゾンなどの宅配物が届く住所があれば十分という感覚だと思います」
こうしたニーズの高まりとともに、狭小物件を多数扱う不動産仲介会社も登場している。都内の家賃6万円以下の物件のみを取り扱う「部屋まる。」もその一つ。顧客の平均家賃は5万円前後で、20代、30代が中心。「築浅で利便性が良く、商業施設が充実した駅力が高い物件に住みたい」と10平方メートル以下の狭小アパートへの入居者も多い。「部屋まる。」を運営する城南コミュニティ社長の並河宏明さんは最近の傾向をこう語る。
「物件選びの優先順位で『広さ』は相対的に下がっています。それよりも、家賃と初期費用の安さ。狭小アパートは投資物件が多いので、敷金・礼金ゼロ、1カ月のフリーレントなどで初期費用を抑え、空室リスクを回避する傾向にある。また、都心の社会人は家に帰って寝るだけという人も多いので、部屋の広さよりも勤務地までのアクセスが重要視されます」
(編集部・作田裕史)
※AERA 2019年2月4日号より抜粋