だから、WARを立ち上げたときは天龍源一郎を前面に出した団体にしたんだよね。これは馬場さんの「俺はアメリカでトップを取ったレスラーだ。俺の人気を超えられるか?」という姿勢や雰囲気を見て教えられたものだ。
今思い返すと、馬場さんと猪木さんがいた日本プロレスは本当にすごい団体だったね。馬場さんファンと猪木さんのファンが明確に分かれていて、見に行ったお客さんは楽しかっただろうなあ。
他にもDRAGON GATEやWJ、ハッスルなんかのリングに上がったこともあるが、俺が語るのも口幅ったいから、特に何も言わないでおくよ……。
最後に天龍プロジェクトだ。俺の娘で代表の紋奈がプロレス好きで、あっちこっちにネットを張って、いい選手たちに「うちのリングに上がって」と交渉して、選手も「天龍がやっている団体なら」と来てくれて、礼儀正しくやってくれているのが嬉しい。
プロレス団体として興行を再開して約3年になるけど、出場している選手たちが成長しているのがわかるし、その成長を見るのが俺も代表の紋奈も大好きなんだ!
経験を積んで成長すると、無駄な技を出したり、受けたりするといった、余計な動きが減ってくる。レスラーは最初、なんでもかんでも技を出したがるもんだが、経験を積むと「この技は今はいらない」と必要な技が何かわかってくるし、タイミングよくパパっと技が出てくると「練習しているな」と感じるんだ。
それから、一見何もしていない間も重要だ。無駄な動きをしていると、プロレスを見慣れているお客さんからしたら目障りでしょうがない。その間や無駄な動きを省いた究極が、酔っぱらって高座で寝ちゃった落語の名人、古今亭志ん生だろうな。お客さんも「志ん生が寝ている姿なんか滅多に見られないから、寝かせてやれ」と言ったというし、一流になると存在感だけでお客さんを楽しませられるんだ!
プロレスのファンもそんな存在感のあるレスラーを愛しているし、そのレスラーが一流かどうかはレスラーよりもお客さんがわかっているんじゃないか。だって、レスラーは一日一試合しかしないけど、お客さんは一日で何試合も見て、他の日も色々な団体の色々なレスラーの試合を見ている。
リングに上がっている選手より、ファンの方がレスラーを見る目が肥えているんだ。だから、レスラーはこのことを心してリングに上がって、カッコいい試合をしなければいけないんだぞ! って、最後にいいことを言ったね~。自分でもそう思うよ(笑)。さすが、ミスター・プロレスだろう!
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。