全日本はジャイアント馬場のもとで選手全員が一致団結していた団体だけど、新日はいろいろな派閥があって、その中で切磋琢磨して盛り上がっている団体。
猪木さんはレスラーに「リングに上がったらケンカのつもりでやれ!」と教えていたらしいけど、本当にその通りで、俺が新日本に参戦したときは、絶え間なく次々と攻撃してくるスタイルに面食らったよ。間なんてものが全然ないんだもの。逆に長州が全日本のリングに上がったときは全日本のレスラーが「間もタイミングもあったもんじゃない!」と愚痴っていたしね。
選手のスタイルが違うと、ファンの気質も違う。新日本のファンはやっぱり尖っていたし、全日本のファンは優しかったと思う。野次も全日本は「動きが遅いぞ~」「もっと早く動け~」というものが多かったが、新日は試合内容に対してガーガー言ってくることが多かったよ。
俺がフリーになって、そんな新日本と全日本の違いを肌で感じて、古巣の全日本が懐かしく思えて、「全日の頃はよかったな」って思っていたとき、ノアに参戦したんだ。全日本のアットホームな雰囲気を味わいたくてね。
でも、ノアは全日本ではなく、三沢光晴の団体だったね。当然と言えば当然だ。全日本のときは三沢たちの上に俺たちがいて、その上に馬場さんと馬場元子さんがいたけど、ノアは三沢が仕切っている団体で、他のレスラーも三沢に気を遣っているのが分かった。
ただ、プロレス自体はやっぱり全日色が残っていたよね。体に染み付いていたものだから、そのスタイルはなかなか変えられない。長州だって、どこに行っても好き勝手に動き回るスタイルだし。俺はどうかって? 俺の基礎には全日があるが、それから色々な団体のリングに上がって色々なものを身に着けた、いわば“天龍源一郎のスタイル”だ。そうでなきゃ“ミスター・プロレス”なんて呼ばれるわけないだろう(笑)。
SWSのときはトップの俺を前面に出してやるつもりだったが、それを嫌がるレスラーが多くてね。やりづらいというよりも「こいつ、わかってないな……」「お前みたいなあんちゃんにプロレスの何がわかるんだよ」という気持ちだった。