現代は、離婚も虐待も増えて社会が複雑化していますよね。教育、福祉、医療、警察と、さまざまな機関と連携して問題を解決していかないと。学校の先生が本来得意なのは、教育の問題だけ。でも社会問題って、学校は不得意でしょう? だから僕は校長たちの集まりの場に呼ばれると、講演の冒頭でいつもこう言うんです。「もう学校は、先生だけで経営する時代ではない」「生徒の問題を自分たちで解決できないのは恥だと思わないで下さい」と。

 学校が抱えていることを「社会ゴト」にしていくために、地域の人をどんどん巻き込むといい。僕はまず、学校の図書室に地域の「出島」を置いた。地元で募集した「本好きのおばちゃん」に毎日放課後は学校の図書室にいてもらったんです。保健室みたいに、教員以外がその場にいると、教室に居場所がない生徒が悩みを打ち明けやすいかなと。そうしたら、手首にリストカットの痕が残るように見える生徒と「おばちゃん」の間で徐々に交流が深まり、学校側が把握していなかった家庭の事情が見えてきました。

 地元の建設会社の社長にもお世話になりました。その方は自治会長で、祭りでは顔役。保護司も務める「頼り甲斐のあるおっちゃん」です。暴力的な振る舞いをする子であれば、日常の様子も隠さずにその人に見てもらいました。ちょっとヤンチャなやつって、切った張ったでやってきた経験の持ち主の前に出ると、その人の言うことは聞いたりする。そのおっちゃんのコミット力には頭が下がった。場合によっては、自分の会社で雇って働かせて、ヤンチャな子を更生させたりね。それは、社会経験の少ない20代の教員なんかではかなわないです。

 大事なのは、「地域の人とチームを作る」という気持ち。隠し事をせず、「共同で」事に当たることです。

(構成/ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2018年12月10日号より抜粋