キャッシュレス生活を進めるほど、スマホやパソコンに重要な個人情報が蓄積していく。流出を防ぐには、21カ条の鉄則を守ることだ。
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東京の郊外に住む女性(40)がそれを最初に知ったのは、夕食の用意をしている時だった。テレビでニュース番組を見ていた小学6年の娘(12)が、「しまじろうの会社が大変だってよ」と言った。
教育事業大手ベネッセホールディングスが個人情報の流出を明らかにした2014年7月9日のこと。「進研ゼミ」などの通信教育でよく知られる。女性の娘も保育園の頃から「こどもちゃれんじ」に入会し、毎月教材が来るのを家族で楽しみにして待っていた。娘の目当てはときどき送ってくる虎のぬいぐるみ「しまじろう」だった。だから、「しまじろうの会社」と呼んだ。
事件のあらましはこうだ。14年6月頃から、ベネッセに登録した個人情報を使って、ほかの会社からダイレクトメール(DM)が来るようになったため、ベネッセに「個人情報が漏洩しているのではないか」という問い合わせが急に増えた。そこで、ベネッセが調査を行い、この漏洩事件が発覚したという。外部に流れたのは、顧客情報、つまり子どもや保護者の氏名、住所、電話番号、性別、生年月日などの基本情報、最大で3504万件という膨大なものだった。
警視庁はデータベース管理の委託先企業に勤めるシステムエンジニアを逮捕。情報は35社に売られてDMやマーケティング活動に使われたという。冒頭の一家にはおわびとして金券500円が届けられたが、心は晴れなかった。
「運よく実害はありませんでしたが、娘の情報も持ち出されました。幼児期の10年分の個人情報です。それがどこで使われるのか分かりませんので、将来が心配です」と、女性は不安でならないという様子だった。
その後も個人情報の流出は相変わらず続いている。しかし、SNSが普及してからはベネッセのような直接的な被害でなく、普通に買い物をしていても、知らぬ間に自分の情報を使われるカタチに変わってきた。そちらのほうが怖いのだ。毎日の生活のなかで、さまざまな手段で吸い取られている。