小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
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写真:gettyimages
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 ある高名な精神科医が、こんな話をしてくれました。

 人は「健全な自己愛」を育むことで人格が成熟する、つまり大人になるのだそうです。健全な自己愛とは、簡単に言えば自分を肯定し、周りに受け入れられていると感じること。それを育むためには、三つのことが必要なのだといいます。

 一つ目は、envy(羨望)の経験。青年期に自分よりも優れた友人に出会い、自分は特別な存在ではなく、似たような人やもっと優れた人がたくさんいるのだなと、いわば自分を相対化するまなざしを持つこと。

 二つ目は、jeaolusy(嫉妬)の克服。恋愛をし、相手を独占したいという強い欲望に身を焦がして、けれど誰のことも思い通りにはできないと知ること。

 三つ目は、束縛を恐れる気持ちを、intimacy(親密さ)へと昇華すること。例えば子どもを自分の自由を奪う足枷と捉えるのではなく、彼らをケアして自立を見届ける責任に喜びを感じるようになること。

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