すると、どうなるか。優秀な生徒を、塾や予備校が取り合うことになる。模試の成績が良い生徒を「特待生」などとしてタダ同然で迎え入れ、合格者数を積み上げるのである。

 有名なのは東進ハイスクールや東進衛星予備校を擁する現役予備校「東進」の、「東大特進」である。模試での成績優秀者は、林修など人気講師の授業をほとんどタダ同然で受講できる。実際、前出の鉄緑会出身東大医学部生の座談会に集まった全員が、東進の特待生であり、東進の合格者数にもカウントされていた。

 同様のしくみが、ほかの塾や予備校にもある。臨海セミナーの「東大ゼミ生」、早稲田アカデミーの「東大必勝冬期合宿」、駿台予備学校の「東大数学全問完答のためのストラテジー」と呼ばれる短期講座などだ。

 鉄緑会、SEG、平岡塾、MEPLO、エミール、Y-SAPIXなどの「中高一貫塾」で鍛えられた生徒たちが、高2や高3になって模試で良い成績をとり、「お客さま」として各塾の「おいしいところ」をつまみ食いし、その代わりに「東大合格1」をばらまくのである。その結果、奇妙なことが起こる。

 18年の東大合格者は合計3083人。一方、塾や予備校の同大合格者数は、駿台1400人、河合塾1305人、Z会1074人、東進725人、鉄緑会418人、SEG121人、グノーブル118人、臨海セミナー134人、早稲田アカデミーグループ72人、Y-SAPIX5人など。以上を合算するだけでも実際よりはるかに多い5千人超となる。

 優秀な受験生の合格実績を、複数の塾や予備校がどれだけ「シェア」しているかがわかるだろう。塾や予備校の合格者数を見るときは注意してほしい。

 ここで見落としてはならないのが、優秀な受験生の塾費用をそれ以外の受験生が負担しているという構図だ。学力の低い子が数多く塾に通って授業料を払うほど、優秀な子により良い環境が用意され、ますます学力差が開いてしまう。学力をつけるために通うはずの塾の本来の役割として不健全な、逆進的な構造といえる。

 ある東大医学部生が、取材で、明るく笑いながら口にした言葉が印象的だった。

「普通にお金を払う一般の塾生たちが、僕らの授業料も払ってくれていたんです」

教育ジャーナリスト・おおたとしまさ)

※AERA 2018年9月24日号より抜粋