奇妙に感じるかもしれない。しかしそれが「何が何でも」最難関校を目指そうとする中学受験家庭には珍しくないやり方だ。

 ただしそれでは、子どもへの負荷が大きくなりすぎる。別の道はないのか。

 SAPIXのほかに関東で難関校に強い塾としては、早稲田アカデミー、日能研、四谷大塚が挙げられる。関西では浜学園のほか、日能研関西や希学園が有力だ。ただ、受験勉強のスタイル自体はどこも似たり寄ったりで、中学受験生に、選択肢はあまりない。

 勝利の方程式がはっきりしているがゆえに選択肢の多様性が乏しい。これは「塾歴社会」の不都合な真実といえる。

 こうして過酷な中学受験勉強をサバイブしてなんとか最難関校の合格を手にすると同時に校門の前で、冒頭の鉄緑会のチラシが手渡されるわけだ。そこには、こう記されている。

「合格おめでとう 次は東大!!」

 彼ら超進学校の新入生をターゲットにするのは、もちろん鉄緑会だけではない。“老舗”としては、SEGと平岡塾が有名だ。1990年代から鉄緑会と並んで首都圏の有名中高一貫校の生徒の間で知られている。いわば「中高一貫塾」である。SEGはもともと数学専門。いまでは英語の講座もある。平岡塾はいまも昔も英語単科の塾だ。両塾とも学力トップ層を相手にハイレベルな数学や英語を教えるが、鉄緑会ほど東大受験に特化してはいない。合格実績も鉄緑会には及ばない。

 現在では大手予備校グループも、この市場に参入している。97年に開設された「河合塾MEPLO」を皮切りに、01年には駿台系の「東大進学塾エミール」、10年には代ゼミグループの「Y-SAPIX」が登場した(代ゼミは09年から10年にかけてM&AでSAPIXを傘下に収めた)。

 少子化に伴い、浪人生は激減。大手予備校が、現役生にターゲットをシフトしており、さらにその中でも難関大学に進学する可能性の高い有名中高一貫校の生徒を狙い撃ちするハイエンドな教室を続々オープンしたのだ。いわば「予備校の塾化」現象である。

 それでも現状では、鉄緑会の牙城は揺るがない。07年にベネッセグループの傘下に加わり、経営基盤も盤石のものとした鉄緑会は、その後も、東大合格者は増加傾向にある。

 こうしたハイエンドな大学受験塾・予備校市場に注目が集まる中、気になる動きがある。

 塾や予備校にとって、東大合格者数は最強の宣伝文句になる。手っ取り早く東大合格者数を増やすには、手間暇かけて生徒の成績を上げるよりも、もともと東大に合格しそうなポテンシャルのある生徒を集めてしまったほうが効率的だ。

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