「我々が提出する法律についての説明はまったく正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」
安倍首相が話す先に「相手」はおらず、常にあるのは「自分」だけと東氏は見る。そうならば、「国民への丁寧な説明」など期待できるはずもない。
「首相のヤジも、相手への感情の表出というより、自分中心に自分の感情を吐露しているだけ。ヤジの先にも“相手”はいない。対話の軸が自分にあるか、相手に置くか。これは、大人になってから訓練で矯正するのは極めて難しい」(東氏)
安倍首相の人となりをよく知る人物がいる。安倍首相の父で自民党幹事長や外相などを務めた安倍晋太郎氏の番記者を長く担当した元共同通信政治部記者の政治ジャーナリスト・野上忠興氏だ。番記者として安倍家に出入りし、晋太郎氏の秘書時代から安倍首相を間近で見てきた。首相の養育係だった故・久保ウメさんに何度も話を聞くなど安倍首相の生い立ちから取材を重ね、著書『安倍晋三 沈黙の仮面』などにまとめた。野上氏は「安倍首相の根底にあるのは、幼少期からの寂しさとコンプレックスではないか」と語る。
「ウメさんは、『晋ちゃんは甘えん坊で強情、自我が強い子どもだった』と話していた。背景には、父の晋太郎さんが3回目の衆院選で落選、3年超も選挙区に張り付いた状態で、母の洋子さんも選挙区で過ごすことが多いなど、多感な幼少期に両親不在が続いた家庭環境がある。その寂しさを打ち消すように、幼少期から『自分が、自分が』という自我が芽生え、一度決めたことは絶対に曲げないという安倍首相の<ベース>が培われたのだと思う。その半面、小学校からエスカレーターで成蹊大学まで進み、受験勉強を経験していないことなど、安倍首相は勉強面でコンプレックスがあったとも私の取材で明かしています。寂しさが生んだ強い自我と、その裏返しのコンプレックス。この二つの延長線上に、今の安倍首相の姿勢があるように思える」
●「討論相手に親切であったり誠実である必要はない」
野上氏は、安倍首相の評伝本執筆で、04年3月に自民党幹事長時代の首相にインタビューした。その際、小泉氏の電撃訪朝にまつわる舞台裏として、安倍首相は、福田康夫官房長官と外務省アジア大洋州局長の田中均氏(いずれも当時)の2人から情報を遮断されていたと振り返り、特に福田氏に対しては「ことごとく僕のやることを邪魔した」と語って、こう続けたという。