「ヤジ」を我慢できないこともある。15年2月の衆院予算委では、民主党(当時)の玉木雄一郎衆院議員が、西川公也農林水産相(当時)の「政治とカネ」の問題を追及すると、首相は「日教組はどうするの!」などとヤジを連発。委員長からたしなめられた。
同年5月には、安保法制を審議する衆院特別委で、民主党(同)の辻元清美衆院議員に対して「早く質問しろよ」とヤジを飛ばし、後日、陳謝に追い込まれた。政治部記者は「辻元、山尾議員ら論客と言われる女性議員たちには、特に感情的になるように見える。理詰めでまくしたてられると、かっとなる性格が出てしまうのでは」と語る。
前出の福島氏も、安倍首相は一部の野党議員の質問には、特に拒否反応を示す傾向があると感じていたという。
「総理は、理論や法律に基づいて論理立った質問をされることが苦手なのでしょう。私や山尾氏といった役人出身の野党議員が問いただすと、感情的になったり、何を話しているか不明なほど早口になったりする。『印象操作だ』というお決まりのフレーズを使って、質問に正面から答えずに時間を浪費させるのも常套手段です」
●どんな時も「自分中心」、対話の先に「相手」はいない
言葉の専門家には、安倍首相の答弁はどう映るのか。『歴代首相の言語力を診断する』などの著書がある米ユタ大学の東照二教授(社会言語学)は、安倍首相の言葉は「情報中心」「自分中心」の傾向が顕著で、第1次政権時からほぼ変化していない、と分析する。東氏によると、聞き手に自分の主張を理解してほしい場合、「物語」「ユーモア」「例示」「引用」「視覚に訴える用語」という五つの要素を入れて話すと効果的で、オバマ米元大統領や小泉純一郎元首相が好例だという。安倍首相は、五つの要素が少なく、自分が伝えたい「情報」だけを並べ、一方的に話す場面が目立つとする。その一方的な言葉の端々に表れるのが、「権力」を誇示しようとする姿勢だ、と東氏は言う。
「安倍首相は、自分は力強く、壮大で、自信があるということを言葉で直接的に表現することを好む。自分に絶大な権力があることを十分わかっていて、その力強さを示せば、相手は従ってくれるという信念があるのでしょう」
その最たる例が、15年5月20日に行われた民主党の岡田克也代表(当時)との党首討論における発言だろう。安全保障法制の議論で、全くかみ合わない答弁をする安倍首相に、岡田氏は「今日、総理が述べられたこと一つも納得できませんよ。間違っていますよ」と反論。安倍首相はこう返した。