「こうなると僕も自己防衛しなくてはならない。埋没しては僕の政治家としての将来のためにもならない。拉致問題でパフォーマンス的な言動を取ったり、国会答弁でわざと強気に答弁して野党を刺激したりしたのも『そっちがそうくるなら、こっちも自分を守るためにやることはやってやる』という防衛本能を働かせた結果だ。徹底的に殺されないために意図的にやったんだ」

 いかに自分の将来のため、自分を守るために、国会で「パフォーマンス的な」「野党を刺激する」答弁をしていたかを赤裸々に語っている。この発言からは、相対する野党の後ろにも国民がいるという意識は感じられない。 

 地元の山口新聞では03年1月3日付の記事でこう発言している。

「変に相手をたてずに、国会答弁もけんか腰でやってきましたし。でも、そのほうが国民に対して正直で誠実だと思うんです。討論相手に親切であったり誠実である必要はない」

 野上氏はこう話す。

「政治家としての研鑽を重ねることで、トップリーダーとして不可欠なバランス感覚が身につくものだと思う。だが、安倍首相はその“成長過程期”が抜けたまま出世の階段を上り詰め、『生』のままで最高権力者になってしまった。首相の言動、振る舞いを見るにつけ、晋太郎さんから聞かされていた『晋三は政治家として必要な情とか、相手の立場になって考えることができない』との言葉が、思い起こされる」

 国会の議論を軽視する「最高権力者」は、総裁選3選が確実視されている。

「今、自民党内で安倍首相の強気な言動をいさめようとする人は誰もいません。首相に同調し、政権交代がないのだから現状維持でいいと考えている自民党議員が圧倒的多数です」(前出・政治部記者)

 安倍首相は「言葉」だけでなく、闊達な議論を是とする自民党の「伝統」も無力化してしまったのか。次号では、自民党と安倍政権の関係を考察する。

(編集部・作田裕史)

AERA 2018年9月10日号

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