歴代の政治家が大切にしてきた「言葉」が力を失った。一方で安倍首相が強気な答弁をして、野党の追及が止まった例もある。5年8カ月続いた第2次安倍政権は政治をどう変えたのか。
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「あと3年、自民党総裁として、首相として日本のかじ取りを担う決意だ」
8月26日午後、鹿児島県垂水市で雄大な桜島を背景に、自民党総裁選への出馬表明をした安倍晋三首相(63)。地方視察に合わせた異例の出馬会見は、NHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」を意識したとされる。
第2次安倍政権の発足から、5年と8カ月。安倍首相は、戦後3位の長期政権を築き上げた。9月20日投開票の総裁選に勝てば、憲政史上最長も視野に入る。だが、強硬な政治手法は、歴代の政治家が大切にしてきた多くのものを破壊してきた。その一つが、政治家の「言葉」だ。安倍首相や政権幹部の言葉は軽く、乱暴になった。政権に不都合な言葉は公文書からも消された。
特に、安倍首相の国会での発言は、いくつもの軋轢を引き起こしてきた。
2017年2月17日、衆議院予算委員会。前々日に続いて「森友学園問題」が取り上げられ、この日は安倍首相が野党から追及を受けた。その終盤、後に何度もニュースで取り上げられる、「あの一言」が発せられる。民進党(当時)の福島伸享(のぶゆき)元衆院議員はこう質問した。
「私はこれは総理が悪いと言っているんじゃないんですよ、利用されているだけじゃないかと思うんですけれども、こうした名目(小学校の設立)でお金を集めているということを総理はご存じでしたか」
安倍首相は眉間にしわを寄せながら早口で「初めて知った」と強調し、最後に語気を強めてこう言い放った。
「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということははっきりと申し上げておきたい」
この発言は、後に財務省公文書改竄(かいざん)を誘引した可能性が指摘される。18年3月には近畿財務局の職員が自殺するという悲劇があった。
●強気の裏には「成功体験」か、進退発言を繰り返す首相
実は、先の予算委での「辞める」発言は1度だけではない。福島氏がこの日、「安倍昭恵夫人の名誉校長就任を知っているか」と問うた時にも、首相は「(森友問題に)関わっていれば、総理大臣を辞める」と発言しているのだ。福島氏はこう振り返る。
「私は『総理に問題がある』とはひと言も言っていない。それなのに、2度も『辞める』と言ったのだから、最初から用意していた答弁だと思う。強気で通せば、それ以上は追及しないとタカをくくっていたのだろう」