貞淑を旨とするか、奔放に楽しむのか。それぞれの考え方があり、正解などない。ただ一つ確かなことは、人生は一度きりということだ。
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厳格で裕福な家庭に育ったリツコさん(53)は、女子大を卒業してそのまま親の決めた見合いで結婚した。相手は28歳、彼女は23歳だった。
「夫はうちに婿養子に入って、父の会社の後継者として働き始めました。父にとってはいい婿だったけど、私にはいい夫ではなかった。心も体も交流がない。そんな新婚生活でした」
結婚して2カ月たっても夫婦生活がない。業を煮やして彼女は「子どもがほしい」と言った。
「彼、童貞だったんじゃないですかね。私は親の目を盗んで、学生時代につきあっていた人もいたから経験済みでしたが。とはいえ私も慣れていたわけではない。ようやくぎこちないながらも結ばれて。その1回で妊娠しました」
生まれたのは女の子。男の子を望んだ実の父に舌打ちされたことで、それまで親に従順だった彼女の気持ちに変化が生じる。
「私は実家と距離をとるようになりました。夫にもいやだったら会社を辞めていいと言ったんだけど、夫は後継者としてがんばるつもりだったようです」
リツコさんの実家に寄り添っていく夫との間もぎくしゃくした。それでももうひとり、今度は男の子が生まれて彼女自身、やっとほっとしたという。
「ただ、それ以来、まったく夫婦生活はなし。子育ては楽しかったけど、子どもたちが自立した時、離婚したいと痛切に思いました」
それが49歳のとき。すべてから自由になって人生をやり直したかった。せめて40代のうちに。だが夫は耳を貸さない。
「50歳の自分の誕生日に身の回りのものだけ持って家を出ました。娘が保証人になって借りてくれたワンルームの小さな部屋に落ち着いたとき、部屋と対照的に大きな自由を感じたんです」
これからは自分の好きなように生きようと強く思ったとリツコさんは言う。夫はそんな妻を静観していたが、1年後に離婚届に判を押してくれた。