一方、結晶性知能は、人生における経験や学習などから獲得していく能力で、言語能力、理解力、洞察力、社会適応力などにあたります。こちらは年をとるにしたがいむしろ上昇し、60代ごろにピークを迎えます。
これらのデータをもとに、知能全体を眺めてみると、全体としての衰えはそれほどでもない、という結論になります。なぜなら結晶性知能が成熟することで、流動性知能の低下をカバーしてくれるからです。
年をとることで失うものがあれば、必ず得るものもあるのです。
■「知識力」は70歳からでも伸び続ける
人の知的な能力には、いろいろな種類があります。記憶力ひとつとっても、その場で名前を覚える短期記憶と、昔のできごとについての長期記憶があります。
そのほか、どれくらい知識を持っているか、知識をたくわえることができるかという「知識力」、道筋を立ててものごとの本質をとらえる「論理的・抽象的思考力」、外から与えられた情報をすばやく処理する「情報処理のスピード」、ものごとに計画的にとり組む「実行機能」などがあります。
国立長寿医療研究センターの調査によれば、このうち知識力は、年を重ねることによって成熟していくそうです。先ほどの、流動性知能と結晶性知能の分類でいえば、結晶性知能にあたる能力といえます。
知識力は、70歳を過ぎるまでぐんぐん上昇していきます。その後、ゆるやかに低下していきますが、90歳になっても40歳より高いという結果が出ました。
一方、情報処理のスピードのような能力は、50代まで向上しますが、その後は急激に低下していきます。
複数の研究から、若いときの頭のよさと、年をとってからの頭のよさは違うということがわかってきたと思います。
若いころは、ぱっと計算したり、覚えたり、問題をすばやく解決したりすることが得意でした。
しかし、年をとってからは、ものをよく知っていたり、ひとつのことにじっくりとり組んだり、豊かな経験から若い人たちにアドバイスをしたりすることが得意になります。
頭のよさの内容は、人生それぞれの段階で、少しずつ異なっているのです。