消費総額が4兆4161億円と5年前の4倍に、右肩上がりに増え続けるインバウンドビジネスだが、全体の約7割を占めるのが東アジアからの観光客だ。さらなる訪日観光客増加を目指すには、欧米豪の客をいかに増やすかが課題となる。
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「アジアの玄関口」の福岡空港から九州自動車道で2時間半。世界最大級の火山、阿蘇山は多くの外国人を魅了してきた。
16年4月の熊本地震の傷痕は深い。だが、海外個人旅行者を呼び戻しているのが「道の駅阿蘇」だ。熊本市内とを結ぶ国道57号そば、阿蘇中岳の白煙を見上げる絶好のロケーションにある。
買い物客でごった返す店内の一角にある案内窓口で、オランダ人カップルをガイドしていたのがフランク・リモージュさん(37)だ。
「JR阿蘇駅がまだ使えないので、バスでここまで来られたようです。いまだに阿蘇中岳の火口が見られないこともご存じでした。阿蘇に来るヨーロッパ人の多くはトレッキングや登山が目的ですね」
フランス人で英語も流暢なフランクさんの人気ぶりは、観光統計にも表れている。日本政府観光局(JNTO)によると、全国と九州地区ともに国・地域別の観光客数は中国、台湾、韓国、香港がトップ4。だが、「道の駅阿蘇」の17年11月の1位はフランスの31人を筆頭に、ドイツ(19人)、香港(17人)、タイ(14人)とまったく違っている。
道の駅を運営するNPO法人「ASO田園空間博物館」の下城卓也さん(49)は言う。
「全国にある1134の道の駅で外国人の多さはトップクラスで、ヨーロッパの個人旅行者が多いのはフランクのおかげです」
熊本市国際交流会館との連携事業で外国人留学生のアルバイト先にもなってきた。日本語がまだ苦手なイラン人などで、接客業務より母国語でのSNSによる“拡散”を期待。ある日、テレビで人気のチンパンジー、パンくんのいる観光施設「阿蘇カドリー・ドミニオン」から突然電話が入った。
「SNSで知った多くのバングラデシュ人が『パンくんのそばでキャンプしたい』と詰めかけたようです。留学生の効果がはっきり目に見えた瞬間でした」
情報発信や観光案内では23人のスタッフの給与は払えない。補助金や寄付も受けておらず、地域と一体の特産品販売で収益を上げるNPO法人が、阿蘇の観光振興に大きな役割を果たす。
温泉大国の阿蘇で外国人に人気なのが、内牧温泉にある「蘇山郷」。館主の永田祐介さん(45)は体験を地域にも生かした。
「外国人客へのアンケートで、食事をしたくても、英語のマップや店のメニューがないといった不満が多くありました」
商店街への400万円の補助金を使って制作したのがグルメガイドの「ふらっと内牧」。内牧温泉にある約20軒の飲食店とメニューを写真や動画で紹介。ホームページは5カ国語対応で、地図にもリンク。さらにクレジット決済機能を持ったタブレット端末も導入した。この取り組みが16年、「人に優しい地域の宿づくり賞」で最優秀賞の厚生労働大臣賞に選ばれた。
次のステップも“連携”だ。
「阿蘇のエリアごとのイベント告知や、カメラを使った道路や雲海情報などを、まず共通のフォーマットにする。そのための仕組みづくりを近隣の7市町村の観光協会で話し合っている。点を線でつなぎ、一つのローマ字表記の『ASO』として世界中に発信していきたい」
(編集部・柳堀栄子、ライター・守田直樹)
※AERA 2018年2月19日号より抜粋