「統合失調症の学生で言えば、美術作品について語るというワンクッションを置くことで、話しやすくなる。作品について語っていることは、実は自分自身の投影なんです。それが他の人に受けとめられ、レスポンスも返ってくることで、自己肯定感が育っていきます。それが改善につながったと考えています」

 伊達が言うそうした変化は、対話型鑑賞を体験した誰にでも起きるという。教え子全体をみても変化が起きているのだ。

 アートプロデュース学科は、入学時に大学院進学を考えるような学生は皆無と言っていい。それが対話型鑑賞の授業を受講することで、問題意識が深まり、向学心に目覚めていく。今では京都大学をはじめ、大学院に進学する卒業生が実に多い。しかも、美術関係以外の分野を選択する例まである。

 大阪大学大学院の医学系に進み、脳と視覚の関係に取り組んでいる卒業生もいれば、久留米大学医学部に進み医者を目指す卒業生もいる。対話型鑑賞によって興味と能力が引き出され、新しい道に挑戦しているのだ。対話型鑑賞は、そういう可能性を持っている。(文中敬称略)(ジャーナリスト・前屋毅)

※AERA 2017年12月4日号より抜粋