この対話型鑑賞はニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発された取り組みだ。そこでの検証に参加した福のり子が京都造形芸術大学のアートプロデュース学科の教授に就任し、2004年から同大学の授業プログラムとしても始まった。学科長の伊達はもともと美術とは無関係の心理学を専攻していたが、その効果を心理学の立場から分析するために07年から関わってきた。伊達は言う。
「私が間近に見た中に、統合失調症の診断を受けた学生が、このプログラムを受講しているうちに症状が起きなくなったという例がありました。それほど、対話型鑑賞は人に変化をもたらす」
美術鑑賞といえば、作者や作品が創られた背景などについて学ぶもの、というイメージが日本では強い。だが対話型鑑賞は、こうした知識は排除する。そして目の前の美術作品に何が見えるかを観察し、それを語り、他の人の見方も聞いて、自分の考えを深めていく。そこから観察力や他人の意見を理解する力、コミュニケーション力といった能力が磨かれていくのだ。