「グローバルマクロの基準は、経済指標や金融政策や社会情勢ですし、相場を本当に動かすのはジョージ・ソロスのような一部の強い人間。短期売買をする人間にはタイミングが重要で、メインはあくまで自身の勘とテクニカル分析ですが、日柄分析の最後の10%に占星術をあてる程度です」(同)
山中さんにとって、金融占星術は、予測しきれないリスクに注意を喚起するツールなのだ。
アメリカ・コーネル大学の宮崎広和教授(金融人類学)は、「不条理で不均衡な世界に身を置く人ほど、知的関心の幅が広い」と指摘する。
「日本にデリバティブが持ち込まれたトレーディング第1世代は、工学部など理系出身者が多いのですが、トップトレーダーほど、知の関心領域が広い傾向がありました」(宮崎教授)
ある証券会社のチームのトップは、易経や宗教学に親しんでいた。UFOや占いに関心を持つ人もいた。
「人間は将来を予想したがるもの。利益が出たら『次も勝てる』と思ったり、損失分をどうにか取り返そうとしたり、情緒面も多分に影響を与えます。ところが、市場は予測不能なモンスターです。彼らが知を広く持ち確信を深めたのは、どの知のモデルも不完全で、『未来が不確実である』ということ。自身を制御し、戒めるために使っていたのだと思います」(同)
「不確実」は居心地が悪い。人は物事に因果を求める。一見ジンクスと思える事象にも、因果関係があれば、納得できる。三井住友アセットマネジメントのチーフエコノミストの宅森昭吉さんには、『ジンクスで読む日本経済』という著書がある。注目するのは、身近な社会現象だ。
「『東京の桜の開花が例年より5日以上早い3月21日以前なら、景気は拡張局面』と言えば、ジンクスのように聞こえるでしょうが、春物が早く売れ出すなど、理屈は立つ。国民の多くが興味を持つことと消費は関係し、従って景気とも連動性があると考えられます」(宅森さん)
●物事を相関性から読む
たとえば、W杯や五輪での日本選手の活躍は、株価を上げる。
「97年、日本代表が初めてのW杯本戦出場を決めた翌日、北海道拓殖銀行が経営破綻しました。最初の都市銀行破綻だったにもかかわらず、株価は1200円高を記録。直近では陸上の桐生祥秀選手が日本人初の100メートル9秒台を出した翌月曜日の株価は上がっています」(同)
対して、因果関係はわからないが、物事の相関性から読み解くのが占いだ。「非科学的」「いかがわしい」「ばかげている」と眉に唾をつける人は多い一方で、「占い」をテーマに取材してみると、経営者や会社役員が「占い」も参考にしたという話をよく聞いた。ある大企業の取締役は風水で社屋の配置を変えたというし、人事担当者が採用にあたり占い師を訪ねたという話は複数から寄せられた。