富山県の1位は「山本」で、他に多いのは「林」「吉田」。これは典型的な西日本型。一方、新潟県は1位が「佐藤」で、「渡辺」「小林」「高橋」などが上位に入る東日本型だという。

「親不知・子不知は、江戸時代以前は有名な難所で、人の移動が少なく、名字が東西で動かなかった。一般的に富山県は東日本に分類されることが多いが、名字からみると、完全に西日本です」(森岡さん)

 きっぱりとした境目がある日本海側に比べて、太平洋側の境目はグラデーションのようになっている。これもやはり、東海道によって人の往来が激しかったことから、名字もゆるやかに変化したと考えられる。それでも、三重県中部の雲出川を渡ると西日本型が多くなり、さらに南の旧松阪市では西日本型の「田中」が1位となるため、雲出川付近が境界ではないかという。では、内陸部はどうか。

「県単位では、岐阜県が東日本型、滋賀県が西日本型ですが、細かくみると、天下分け目の戦いがあった関ケ原が東西の境目になっています」(同)

 滋賀県との県境の岐阜県不破郡には関ケ原町と垂井町の二つの町がある。両方ともトップは東日本型の「高木」。だが、2位以下をみると、垂井町が東日本型なのに対して、関ケ原町では「西村」「田中」「吉田」と完全に西日本型になる。

「垂井町は東側に広がる濃尾平野の末端だが、関ケ原町は東西を走る谷の西端となり、滋賀県側を向いた谷とも捉えられる。関ケ原町は、滋賀県旧坂田郡(現・米原市)との行き来が多く、近江との結びつきが強かったのではないか」(同)

(編集部・作田裕史)

AERA 2017年8月14-21日号

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