生活習慣、思考様式、味覚……普段は意識しなくとも、ふとしたときに表れるのが「東」と「西」の違い。巨人と阪神を例に出すまでもなく、永遠のライバル関係でもある。地質学的な境界線・「糸魚川―静岡構造線」(糸静線)は、言語や文化にも大きな影響をもたらしてきた。
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言語や文化にも、断層は大きな影響をもたらしてきた。糸静線の西側は飛騨山脈や赤石山脈の高山が沿線に連なり、天険を形成している。東側は新潟県から長野県にかけて妙高連峰が連なり、八ケ岳へと続いている。ここまでの険峻が続くと東西への人の往来は難しく、言語や文化でも断絶が起きやすい。日本の方言に詳しい東京女子大学の篠崎晃一教授が言う。
「たとえば『居る』や『鱗』の言い方は富山県、岐阜県の東側に沿ってはっきりと分かれます。ただ、南側では言葉によって、境界が東に寄ったり、西に寄ったりする。これは東海道ができたことで、人の往来が盛んになった結果だと考えられます」
日本語はアクセントも「東京式」と「京阪式」で大きく分かれる。「東京式」は東北や中国地方、九州の一部にも分布しているが、東西の境界は岐阜県と愛知県。滋賀県、和歌山県からは「京阪式」となる(北陸地方は準京阪式)。
「東京式と京阪式の両方のアクセントが混じる方言が、岐阜県西部、関ケ原町に隣接する垂井町にあるといわれます。内陸ではこのあたりが境界だと思われます」(篠崎教授)
●富山県は完全に西日本
方言やアクセントの境界は、実は、日本人の名字の分布ともほぼ重なっている。
『名字でわかる あなたのルーツ』(小学館)の著者で姓氏研究家の森岡浩さんによると、東日本には「佐藤」「鈴木」が多く、西日本には「田中」「山本」が多い。その東西の境目を見ていくと、日本海側は新潟県と富山県の境界にある親不知・子不知だという。