「家というものが壊れ、檀家制度が消えていく。家制度に縛られた墓の在り方は、とりわけ女性には理不尽なものがある。時代に合わせた墓が求められていました」
こうして1989年、会員制で永代供養をする集合墓「安穏廟(あんのんびょう)」を建築した。そこから生まれた会員制度は、全国寺院のモデルになったことでも知られる。
当初、10年で満杯になればいいとスタートした1基目の安穏廟108区画は、4年で完売。その後3基を造り、計4基432区画に増やしたが、12年間で完売した。02年には小型の集合墓「杜(もり)の安穏」を造ったが、それもほぼ売り切れたそうだ。
●宗派超えてつながり
現在会員は全国に約900人。寺では年4回会報を発行し、毎年8月下旬に遺族や会員が集まる送り盆の行事を開き、合同法要や、老いや死に関するセミナーなどを催す。
「檀家制度が時代に合わないことは、多くの寺院が認識しています。寺批判の一方には期待があります。一つを変えると全部を変えないといけなくなりますが、一つずつ丁寧に変え、誰もが納得できる供養ができるお寺に変えていきたいと思います」(小川住職)
風穴は開いたが、先の橋本住職は、改革はまだ「5合目」だという。いまだ見性院の若い僧侶が他の寺に行くと、「あそこのお寺には行くな」と言われ、旧檀家の中には檀家制度廃止を完全に納得していない人もいるという。それでも将来、M&A(統廃合)によって他の寺と手を携えグループとしてまとまるHD(ホールディングス)化も橋本住職は視野に入れている。すでに、こうした考えに賛同する僧侶は宗派を超えて全国に70人近くいて、「善友会」としてお布施の額を明示し、僧侶の紹介など横のつながりを強化している。経済的に自立できる「強いお寺」を増やし、仏教の教えを広めていく考えだ。その「頂上」には何が待っているのか。橋本住職が言う。
「日本の仏教は死後にかかわりすぎてきた感があります。お釈迦様の説いた仏教は、一貫して生きるための教え。生きているうちからお寺と縁を結んでもらい、その最終章に葬儀と供養があるのが本来の姿。信徒が生きている間に何ができるのか。それを追求していきたい」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2017年8月7日号