日本人がなじんできた「お葬式のかたち」がいま激変している。従来型のお葬式ではなく、「家族葬」が広く受け入れられ、弔いの形は家から個へ――。葬儀費用の「見える化」と価格破壊は何を生むのか。AERA 8月7日号で、新しい葬式の姿と、大きく影響を受ける仏教寺院のいまを追った。
「檀家(だんか)制度廃止」という、江戸時代から連綿と続く仏教のスタイルに一石を投じた、古刹の僧侶がいる。“裏切り者”のレッテルを貼られながらも、改革に驀進中だ。
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地方を中心に集落の高齢化や過疎化、地域共同体の希薄化で、江戸時代から400年近く続く檀家制度が、揺らいでいる。そんな時代に、「改革」に名乗りを上げた僧侶がいる。埼玉県熊谷市にある曹洞宗の古刹(こさつ)・見性院(けんしょういん)の橋本英樹(えいじゅ)住職(51)だ。
「今の資本主義経済の自由競争の中で、お寺だけ時間が止まり、僧侶も堕落していました」
穏やかな口調で、橋本住職は語る。
見性院は400年以上の歴史を持ち、橋本住職は23代目に当たる。駒澤大学大学院を修了し、曹洞宗の大本山・永平寺で3年間修行。25歳の時に見性院の副住職になった。しかし月収は10万円。とても生活できないので、葬儀に僧侶を仲介する10近くの派遣業者に登録しアルバイトに明け暮れた。
一方、バブル期、寺が所有する土地は高騰し、お布施の相場もグンと上がった。高級車を乗り回しギャンブルや酒色に溺れる僧侶も目にした。仏教はこれでいいのか──。
●檀家の解放宣言の衝撃
2007年、42歳の時に先代住職だった父の跡を継ぎ同院の住職となると、改革に乗り出した。
11年4月、見性院の檀家総代が集まる役員会に「檀家制度の廃止」を諮った。
「お寺を滅ぼす元凶が、檀家制度です」(橋本住職)
寺院と人は本来、自らの思想や信条、宗教観によって自由に結びつくべきだ。それを妨げているのが、江戸時代に生まれた檀家制度と気づいたという。ならば、諸悪の根源にメスを入れるしかない、と。だが、地方では地縁・血縁はまだ濃く、檀家制度は残っている。前代未聞の檀家の解放宣言に、檀家たちからは厳しい声が飛んだ。