多くの仏教者は、寺と檀家はお金ではなく、心と心でつながってきたと思っている。また、子どもの頃に神社仏閣の近くで育った人は、そうでない人に比べて幸福度が高いという調査結果を、大阪大学の大竹文雄教授(労働経済学)らが3月に発表し、話題となった。各宗派の僧侶でつくる仏教情報センターの前理事長で、東京・元麻布の正光院(高野山真言宗)の高橋隆岱(りゅうたい)住職(63)は、「お布施の定額化などお金で換算していくと、仏教でなくなっていく。ひいては自分の首を絞め、本当の信仰が見えにくくなってしまう」と憂える。

「心の問題を扱う宗教者は信用が第一です。私生活において私たちの背中を見せるしかありません」(橋本住職)

 同院では僧侶として守るべき最低限の戒律を「心得十カ条」として掲げる。▽ゴルフ・釣りはしない▽ギャンブルはしない▽高級車に乗らない──といった項目が並ぶ。

●宗教法人の収支公開

 寺など宗教法人の経理はベールに包まれ「ブラックボックス」だ。そんな中、見性院は収支を公開している稀有な寺だ。
 16年度の見性院の収支だ。同院の収入は、檀家制度をやめた当初こそ伸び悩んだが、1年を過ぎると増加に転じた。14年度は約9980万円、16年度は約1億2816万円となった。先代のやり方を踏襲していたころは3千万円弱だったというから、経営規模は実に4倍以上に拡大した。

 収入の大きな柱となっているのが、永代供養。料金は合同納骨プランが3万円、10年間個別保管プランが10万円など。各地から年間200件近く受け入れる。葬儀や法事の数は以前の2~5倍になり、葬儀は年35件、法事は年約300件執り行う。

 一方、支出の合計は約1億2480万円(16年度)。ここには住職や寺のスタッフ10人分の給料も含まれる。給料は月給制にしていて、橋本住職は月約50万円をもらう。差し引き約336万円の黒字となった。前代未聞の情報公開に、橋本住職はこう話す。

「収支の公開による風当たりは強いものがありましたが、襟を正し、さらに精進していく覚悟ができました」

 家から個へ──。旧体制の呪縛を断ち切ることで、信徒が増え活性化した寺院は少なくない。新潟市にある700年以上の歴史を持つ日蓮宗の妙光寺もその一つ。改革に着手した、53代目の小川英爾(えいじ)住職(64)は言う。

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