「GPS捜査については警察庁通達の前から大阪府警がやっていたことがわかっている。入れ墨の彫り師を医師法違反で検挙するなど、警察は使えるものはなんでも使う組織なんです」
窃盗犯の検挙のためならまだわからなくもないが、警察の情報収集の範囲は一般人としか言いようのない人にまで及んでいる。特に、テロや組織犯罪を相手にする「公安警察」はその傾向が極めて顕著だ。10年、在日のイスラム教徒に対し警視庁公安部が捜査を重ねてきた記録ファイルがインターネット上に流出。イスラム教徒というだけで個人の氏名、住所、写真や取引先、預金口座まで調べられていた。文書には、イスラム教徒の在日外国人9万人のうち7万2千人まで把握できた、と記してあったという。この事件でイスラム教徒が損害賠償を求めた裁判で、弁護人を務めた梓澤弁護士はこう語る。
「ひとたび警察が抵抗集団と認定すれば、とことん監視される。デモ参加者の顔写真を撮って免許証と照合し名簿を作るなど、いろんなことを警察はやっているんです」
●市民の勉強会まで監視 職務に忠実ゆえに暴走を
このケースでは情報が誤って流出したが、警察側が意図的に情報を流した例まである。14年、岐阜県大垣市での風力発電施設建設を巡り、勉強会を開催した人物やその周辺人物について同県警大垣署が事業者の電力会社に個人情報を漏らしていたことが発覚した。両者の議事録とされている資料には、警察側の「大々的な市民運動へと展開すると、御社の事業も進まないことになりかねない」「今後情報をやりとりすることにより、平穏な大垣市を維持したいので協力をお願いする」といった発言が記録されている。ごく普通の市民活動を、平穏を乱す行為として敵視し、監視対象にしているのだ。
公安警察を長く取材し『日本の公安警察』などの著書があるジャーナリストの青木理さんは、「警察官はおおむねみんなまじめだし、職務に忠実」と言う。そして、こう付け加える。
「だからこそ、彼らは暴走する可能性があることを忘れてはいけない」
オウム事件で存在感を発揮できなかった公安警察は外事3課を創設してテロ対策に乗り出したものの、捜査ターゲットが見当たらないまま、イスラム教徒に対する大規模な情報収集を行った──そう、青木さんは読む。膨大な個人情報への遠慮のない侵入は、彼らの「まじめさ」のたまものでもある。だから共謀罪による監視対象者を一定期間後に開示するなど、警察の捜査手法を第三者にチェックさせる仕組みが不可欠と青木さんは言う。
「実際にテロが起きて世論がヒステリックになった時、警察がその後押しを得て捜査手法を広げ暴走する可能性がある。内なる暴力装置の暴走こそが国を危うくするという発想がない今の政治家は『平和ボケ』だ」(青木さん)
※AERA 2017年7月10日号