例えば(1)の「組織的犯罪集団」の定義について。反対派の高山佳奈子・京都大学教授は「ドイツ刑法では、犯罪が主たる目的ではなく、副次的な場合は対象から除外すると明記しているが、日本の共謀罪にはそれがない」と指摘。一方で、賛成派である木村圭二郎弁護士は「『重大犯罪の遂行』という基礎的な目的がなければ組織として成り立たない団体、というのが定義で、ドイツ刑法より厳格。ハードルは高い」と言う。とすれば、数々の事件を起こしたオウム真理教(当時)でも犯罪が基礎的な目的ではないので、組織的犯罪集団には当たらない可能性もある。
●警察幹部は冷めた視線 「こんな法律使えない」
また(3)の「準備行為」について。共謀罪では、犯罪を「準備」した段階で処罰されるため、「居酒屋で上司をぶん殴ろうと計画を立てたら逮捕」という反対派の批判につながっている。高山教授は条文で準備行為を「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他」としていることから、「拡大解釈の余地がないほど無限定だ」と言うが、木村弁護士は「共謀罪が成立するのは厳密に定義された『組織的犯罪集団』が主体の時に限定。『準備行為』の広がりのみでの議論は無意味だ」とするなど両者の意見は真っ向から対立する。
そして前述した、(2)犯罪数の多さだ。きのこ狩り(森林法違反)や所得税法などの税法や、植物の新品種育成の権利を保護した「種苗法」といった法律まで含まれている。反対派の梓澤和幸弁護士はこう指摘する。
「周囲と相談して経費に含めたものが税務署で認められなかった、海外製の穀物の種子を日本の環境に合うよう品種改良しようとしたといったケースでも、所得税法や種苗法違反の準備行為があったとみなされ、共謀罪が適用されうるのです」
法律の解釈には確かに幅がある。賛成派の意見の底流にあるのは、共謀罪を実際に運用する警察と司法システムへの信頼感だ。賛成派の椎橋隆幸・中央大学名誉教授はこう語る。
「日本の警察は基本的に適正な法執行をしているし、比較法的に見ても権限の行使は抑制的だ。警察が判断を誤っても検察が公判維持が難しいと考えればそこで止まるし、裁判所の判断もある」
また木村弁護士は、こうも語る。
「現行法でもデモ等に関する威力業務妨害の実行行為をもとに、共謀共同正犯理論で、単なる『共謀者』の立件が可能である。しかし、警察は法の限界に挑むような執行はしていない」