いまの法体系でも「共謀共同正犯」という法理論があり、暴力団組長のボディーガードが銃を持っていた時に組長が直接ボディーガードに銃所持を指示していなくても「共謀共同正犯」として銃刀法違反を適用した、といった判例がある。これを援用すればデモで誰かが威力業務妨害で逮捕されたら主催者を「共謀者」として立件することもできそうだが、そんなことはいまだされていないというわけだ。

 警察取材が長いジャーナリストは、共謀罪法を冷めた目で見る警察幹部が少なくないと指摘する。

「国際条約批准のために作文された法律で捜査現場が使うことを想定していない、準備行為の立件のためには捜査手段を整えなければいけないがその見通しがない、といった意見があります」

 立件に必要な捜査手段とは、通信傍受や潜入捜査のことだ。通信傍受は00年に始まったが、対象犯罪が13類型に限られている。過去の刑事司法改革論議では警察が会話傍受、たとえば直接机の下などに盗聴器を仕掛ける捜査手段の導入も提案したが、見送られたという。そのため、「こんな法律があっても使えない、という結論になっています」(ジャーナリスト)というのだ。

●公安警察の情報収集 デモ参加者の写真照合も

 警察は立件できる手段がない。だから共謀罪は安心──。だが、未来にわたってそんな安心が担保されるのか。

 法律には、拡大解釈を罰則をもって明確に禁じる文章が記載されているわけではない。また前出の梓澤弁護士は、「警察は刑事訴訟法上、『犯罪があると思料するときは』捜査ができると規定されている」とも指摘する。いくら検察や裁判所が歯止めになるといっても、警察が「これは共謀罪だ」「彼らは犯罪組織だ」と思い込んで捜査を始めてしまうことは止められないし、その時点で重大な人権侵害は起こりうる。そして警察はすでに現状の法体系でも、個人の人権を脅かす捜査や情報収集を繰り返してきた。

 裁判所の令状を取らず捜査対象者の車にGPS端末をつけて行動を確認する行為は違法──今年3月、最高裁判所でそんな判断が下された。

 きっかけは13年12月、店舗荒らしで逮捕された男性が、自分の車にGPSがつけられていたと弁護人の亀石倫子弁護士に告げたことだ。共犯者のバイクには、部品を外さないとつけられない箇所にもGPSがあった。調べていくうちに警察庁が06年にGPS捜査について「保秘の徹底」を通達していたことが判明。警察は通常の捜査における張り込みや尾行と同じで、令状がなくてもGPSによる捜査は可能だと主張しつづけた。亀石弁護士は言う。

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