委員会採決省略の強行採決、実在した「怪文書」……。「安倍一強」のもと、自民党はなぜここまで傲慢になってしまったのか。その源流を「政・官の関係」「派閥弱体化」「小選挙区制」の現場で考察し、いかにして現在の一強体制が作られていったかを明らかにする。AERA 2017年6月26日号では自民党を大特集。
国民の意思を代表する政治家に、専門性と公平・中立性をもって対峙する──。安倍一強体制は、そんな政と官の緊張関係に異変を生じさせている。政府与党の顔色をうかがう官僚組織を生み出したのは、いったい誰なのか。
* * *
「永田町や霞が関で、議員も、役人も議論する風景がめっきり減った。これは危機的ですよ」
ある総務官僚が、そう声を潜めた。民主党政権時代の混乱にも辟易したが、安倍晋三首相や菅義偉官房長官の荒っぽい答弁や会見のやりとりに、不安を感じる。身の回りで自由な議論が減り、前川喜平・前文部科学事務次官の前代未聞の告発で、官邸主導の息苦しさも感じるようになった。
政治学者の御厨貴・東京大学名誉教授は教え子の官僚たちが「昔に比べると相当疲弊している」と言う。
「昔は年次を重ねれば大きな仕事を任せてもらえる期待があったが、今はそれがないためです」
●下がるモチベーション
中央官僚の無気力を生む構造は、2014年に誕生した内閣人事局制度と安倍一強体制の二つの要素から生まれている。内閣人事局はそれまで各省庁がまとめてきた人事のうち、幹部公務員約600人について首相の意向を反映させるための組織。官邸が人事権を握ったことで、政治家の意向を官僚が聞く、もしくは「忖度(そんたく)」するようになった。また、官邸の強化は官僚ヒエラルキーに大きな変化をもたらした。
「昔は本省で次官になることが目標。今は官邸や内閣官房、内閣府にいるほうが仕事ができるし、本省組は一生懸命やっても官邸に行く官僚にかなわないと思うと、努力しなくなる」(御厨氏)
安倍官邸を取り仕切っているのは菅官房長官と杉田和博官房副長官、第1次安倍政権期も安倍首相を支えた経済産業省出身の今井尚哉秘書官や警察庁出身の北村滋内閣情報官ら、政官問わず首相の長年の「お友達」だ。
「菅官房長官はよく人を見ていて、菅さんのお眼鏡にかなうかどうかで(引き上げられる)人が区分されている。何らかの政策を導入し、成功したという客観的な要件があればいいのですが、それは見えない」(同)
官邸という頭脳部分ばかり大きくなり、足を持っている各省のモチベーションが下がってどんどん枯れている──。御厨氏は、そう憂う。