官僚は高い専門性と知識を持つが、政治家を中心に構成する内閣の部下であり、その意思を受けて動くのが建前だ。だがかつては官僚が政策を取り仕切り、1970年代からは自民党側が官僚と結び「族議員」を中心として政策決定のイニシアチブを担ってきた。その構図が国益ならぬ「省益」優先として批判を受け、96年に発足した橋本龍太郎内閣は中央省庁の再編、首相権限強化や首相補佐官増員といった行政改革を進めた。01年に発足した小泉純一郎内閣は首相直属の「経済財政諮問会議」を使いこなし、官邸の意向が族議員を通さず各省庁に直接影響を及ぼすようになった。

●「官邸何するものぞ」

 だが、そうした「政治主導」の流れの中でも、官僚は政治家と正面から対峙していた。財務官僚出身で小泉政権スタッフも経験した岸本周平・民進党衆院議員は「小泉政権期でも官僚は官邸に対してはっきりものを言う風があった。政治批判もしていたし、激しい論争もありました」と言う。

 党内で政権と距離を置く議員に国会質問などで知恵をつけ、自分たちの思うような政策実現に結びつけた官僚も存在していた。わずか1年で倒れた麻生太郎内閣で筆頭秘書官を務めた岡本全勝内閣官房参与は、「官僚も『官邸何するものぞ』くらいのことを思っていたかもしれない。今の官邸主導の動きは政策遂行に関してはあるべき姿で、うらやましくてしょうがない」と言う。

 警察官僚出身で、小泉政権で首相秘書官を務めた小野次郎氏(元民進党参院議員)は、新しい施策に官僚側が「○年○月の閣議決定に反する」と抵抗し、「昔の閣議決定にいつまでも縛られるんだったら、内閣を代える意味もない」と反論してきたと振り返る。

「官僚組織が大事にしているのは継続性や公平・中立性。小泉政権は政治主導を進めていましたが、そういった官僚組織に対してはリスペクトをもって運営してきたと思います」

●官邸の口出しに緊張

 継続性や公平・中立性は政治家にはなかなか持ちえない特質だ。岸本氏は前川前事務次官のモチベーションは政策決定のプロセスがないがしろにされたことと読む。「獣医学部新設の条件として閣議決定された『日本再興戦略2015』、いわゆる“石破4原則”が破られたことが彼の主張のポイントなのです」

 だが、前川氏に続く動きは見られない。安倍一強体制が、こういった政治と官僚の緊張関係を失わせつつあるのだ。

 今年6月、「慰安婦像」をめぐり駐韓大使を帰国させた安倍政権を批判したとされる韓国・釜山総領事が着任1年で異例の退任をさせられた。

「太平洋戦争前夜でも米国にとどまり交渉ルートを探っていたのが外交。継続性を失わせる政府の対応を批判したことで更迭されるとなれば問題ではないでしょうか」(政界関係者)

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