こうした「恣意的」に映る人事が官僚を萎縮させているという声に対し、前出の岡本氏は、

「昔から審議官以上は形式上は内閣承認人事だったし、制度的には何も変わっていない。また、官僚は省内で政策議論ができるか、実行力があるかでまずは評価される」

 として、官邸主導人事を「臆測」だと一蹴する。民主党政権時代に参院議員として公務員制度改革にかかわった松井孝治慶應大学教授も「官邸が省庁の人事案に対してものを言うのは想像する限り1~2割程度では」と語る。ただ、現状は潮目が変わりかけているとも分析する。

「もともと官僚人事は大臣が口を出すこともタブーだった。制度が変わり、官邸から人事に一つ二つ口を出されると、それだけでビビッと緊張が走る」

●官僚を軽んじた民主党

 安倍一強体制のもと、安倍首相や菅官房長官ら安倍官邸にも官僚の「生きた」評判が蓄積されてきている。その蓄積が、霞が関に不安を与えているのではないかと松井氏は言う。

 財務官僚出身の北神圭朗・民進党衆院議員は2、3年前にある幹部官僚に「民主党政権期を経て官僚は政治家に直言するようなことをしなくなり、良き文化が失われた」と言われた。

「民主党の未熟な政務三役クラスが官僚を軽んずる扱いをして、政務三役会議に官僚を立ち入らせなかったりもした。官僚の専門性や士気は大事にすべきだった。霞が関は今でも民進党を嫌っている」(北神氏)

 官僚の無気力は、こうした民主党の未熟な「政治主導」にも原因があったと北神氏は振り返る。また、内閣人事局制度のモデルとなったイギリスでは、若い時に幹部候補の人材は内閣で3年程度働くので、各省庁で人事評定が共有化され、あからさまに恣意的な人事がやりづらくなっているという。岸本氏は「民主党政権期に人事局制度がスタートできたとしても、こういう伝統がないからうまく使いこなせたかは疑問。恣意的に運用してしまった可能性も十分ある」と話す。

 官僚の人事に関して強い立場の官邸には、自制とバランスが求められる。松井氏は、

「さもなければ(議院内閣制ではなく)大統領制のようになってしまう。本来は二大政党制による抑制、均衡が働くことが望ましいのです」

 だが、野党による均衡は図られず、官僚からは談論風発の気概は失われていく。さらに、「官僚の意見を聞いて丁寧に合意形成せず、ビシビシ物事を決めているため、支持率が高くなっているという側面もある」(北神氏)

「忖度官僚」を生み出しているのは、安倍一強政権を選択し続けている有権者でもあるのだ。

(編集部・福井洋平、作田裕史)

AERA 2017年6月26日号

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