「マイホームをあきらめざるを得ない場合、競売にかけられる前に『任意売却』するという選択肢もあります。一般的には競売よりも高い価格で売却でき、生活再建もしやすくなります」
「任意売却」とはどのような仕組みなのか。
住宅ローンの支払いが困難になった人に対してコンサルティングを行っている「任意売却119番」の富永順三代表はこう説明する。
「任意売却は借入先の銀行の同意を得て、自宅を競売にかけることなく売却することです。家を手放さなければならない点は競売と同じですが、任意売却のほうがさまざまな面で有利なことが多い」
富永氏によると、競売では入札者のほとんどが転売目的の不動産業者で、市場価格を大きく下回る価格で落札されることが多い。これに対し、任意売却なら通常の不動産売買と同じように売却するので、本来の市場価格に近い値段で売れる。
また、手元に1円も残らない競売とは異なり、任意売却なら売却代金の中から引っ越しや再出発の資金として30万~50万円程度を手元に残せたり、明け渡しの時期も相談に応じてもらえる可能性もあるという。裁判所で公告される競売とは異なり、隣近所に知られることなく引っ越しすることも可能だ。
中でも最も大きな違いは、売却後に残ったローンの扱いだ。
「ローン返済が苦しくなった人の多くは自宅を売ればいいと考えるのですが、現実の評価額はローンの残債を下回り、売却しても完済できないことが多い。競売で安く買いたたかれて多額のローンが残れば、自己破産に追い込まれて全資産を失う可能性も高まりますが、比較的高く売れる任意売却で残債を少なくできれば、自己破産せずに生活を再建する道も開けます」
しかも、金融機関に交渉することで残ったローンの減額に応じてもらえたり、月々の返済額を少額に抑えてもらうことが可能だという。
「一般的に任意売却後に残ったローンは、不良債権として金融機関から債権回収会社(サービサー)に債権譲渡されます。サービサーは債権価格のわずか数%程度で買い入れているので、返済条件には柔軟に対応してくれることが多い」