よしだ法務事務所代表司法書士の吉田隼哉氏が言う。

「遺言書を書くのは縁起でもない、死んだ後のことを考えたくないと考える方がとても多い。親に『遺言を書いて』とお願いするのも言い出しにくい。このような現実が弊害になっていると考えられます」

 行政書士の齋藤昭子氏は、

「極端な話、1円でも遺産があれば相続が発生する。遺言はすべての人に必要なもの」

 と話す。

「例えば父、母、子2人のような一般的な家族で父が亡くなった場合、法定の割合では母が遺産の半分を、子がそれぞれ4分の1を受け取ることができます。遺産が現金であれば分与しやすいのですが、特にトラブルになりやすいのが不動産を持っている場合。相続人のうち1人でも納得しない人がいたら、不動産の名義変更も売却も進まなくなってしまいます」(齋藤氏)

 さらに、アディーレ法律事務所の弁護士・篠田恵里香氏は、次のような事例も多いと指摘する。

「父が再婚で、前妻との間にも子どもがいると、その子どもにも遺産を受け取る権利が発生するため、遺言がないとトラブルになりがちです」

 住宅ローンなどの借金があったり、遺産が多岐にわたっている場合などは家族信託では対応が難しいケースもあり、遺言書があったほうがいいという。

「信託に供しない財産については結局は遺言書がないとどう分けたらいいか分からない」(篠田氏)

 では、遺言を書こうと思ったらどうすればいいのか。そうみ行政書士事務所・代表の澤海志帆氏に聞いた。

「遺言には『自筆証書遺言』や『公正証書遺言』などがあります。まずは自筆証書遺言を書いてみたり、エンディングノートを活用するのもいい」

(ライター・景山薫)

AERA 2017年1月23日号