そこで母の所有不動産の管理をBさんが請け負う内容の家族信託を組むことにした。「これまでは賃貸に出している物件の契約更新などの手続きも名義人の母にしかできなかったが、信託のおかげで自分が一手に引き受けられるようになった」。Bさんの母は家賃収入を受け取る権利を保持したまま、賃貸管理などの権限をBさんに移した形だ。
●直系親族に継がせたい
「家族信託を組むと形式上は所有者となり、不動産登記簿に管理者として名前が記載される。おかげで契約書類などの必要書類はすべて私宛てに届くように変更できた。母にも“大事な書類は全て僕のところに来るから、実家に届くのは基本的に勧誘や広告だけ”と言えるようになった。家族信託には精神的なメリットも大きいと実感しています」(Bさん)
ほかにも家族信託の活用例は多種多様だ。たとえば遺言で指定できる財産の振り分け先は、次代までの1代限り。しかし、家族信託なら2代、3代……と先々まで財産の承継先を指定することもできる。『相続対策は東京中古ワンルームと家族信託で考えよう』の著者・横手彰太さんは「不動産、現金、未上場株(中小企業経営者)のほか、貴金属やペットも信託財産となり得る。財産を誰にどう分配するかを柔軟に決められるのが家族信託のメリット」と話す。
代々直系親族で不動産を承継してきた家族の場合、子どものいない長男が不動産を継ぎ、長男が妻より先に死亡すると将来は長男の妻の実家に不動産が渡ってしまう可能性がある。それを防ぎたければ、長男の妻の死後は次男の子など直系親族に不動産所有権を戻す家族信託を組めばいい。