学校が始まるやいなや、自ら命を絶つ子どもがいる。彼らの気持ちに近づくには……。子どもたちに「予防教育」をすることで、自死の数を減らす努力が続く。
今年の夏休みが明けた始業式の朝。関東地方の私立中学校に勤める40代の男性教師は、電話のベルが気になって仕方なかった。かつて始業式の朝に、生徒の自死を告げる警察からの電話が職員室に入ったことがあるからだ。
理由は、学校でのいじめではなかったという。宿題が終わらなかったのを苦にした。英検に落ちたことを親に話せなかったらしい。塾でのテストの結果が悪かった……職員会議での校長の報告は、おおむねそんなことだった。どの理由も釈然としなかった。
「でも、お子さんを亡くした親御さんに、根掘り葉掘り聞けません。学校内で何かなかったか、調査してほしいと言われたことは一度もない。ただ、ずっと後になって同級生が卒業してから、実はいじめもあったとか、わかることもありました」
若年層の自殺が社会問題になったここ数年は、学校ぐるみで「テストの点や成績などで、子どもを追い詰めないように」と保護者に伝えている。いじめに関するアンケートも実施した。できることはしているつもりだ。それでも、不安は消えない。
「世間で言われているように、夏休みやゴールデンウィークの休み明けはビクビクしてます。気になる生徒は正直、両手の指では足りませんから」
●突出する「9.1」
子どもの自殺は、夏季休暇明けが最も多い。内閣府が昨年、過去約40年間の18歳以下の自殺者数を日付別に集計したところ、9月1日だけが100人を超え、131人にのぼった。神奈川県鎌倉市図書館の職員が昨夏、「学校が死ぬほどつらい子は図書館へ」と発信したツイッターが共感を呼んだことも記憶に新しい。
最近では、「9.1」だけが要注意とは限らない。ゆとり教育廃止の流れで増えた授業時間数をこなすため、8月下旬から2学期をスタートさせる学校も珍しくなくなった。夏休みが短い東北や北海道は、もともと8月に始業式を迎えている。
8月25日、青森市内の中学2年の女子生徒が自ら命を絶った。2学期の始業式の翌日のことだ。スマートフォンに「遺書」の書き出しで「ストレスでもう生きていけそうにない」「もう無理」などと書かれていた。いじめられたとする複数の生徒の実名も挙げられていた。
青森県では8月19日にも、中学1年の男子生徒が「いじめがなければもっと生きていた」といった書き置きを残し亡くなる事件があった。