4年前から「いのちの学習」と称し、自殺予防プログラムを実施している学校があると聞き、訪ねた。京都府向日市立西ノ岡中学校。年に1度、中学3年生がクラスごとに2時間かけて学ぶ。
大阪府内で小・中学校のスクールカウンセラーを務め、『学校現場から発信する 子どもの自殺予防ガイドブック いのちの危機と向き合って』の著書もある阪中順子さんが出張授業をしている。中学校教員として長く教壇にも立ち、現在は日本自殺予防学会理事でもある子どもの自殺予防の第一人者だ。
●友に接する模擬体験も
世代や個々によって異なるかもしれないが、私たち大人が受けてきた「命の授業」といえば、「死んじゃダメ」「命は大事に」と学校の先生から諭される、といった印象を抱く。だが、阪中さんの授業はまったく異なる。
「いのちの色って何色?」
「これ嬉しかったなっていう“プチハッピー”をみんなで出し合ってみよう!」
そんなふうに緊張をほぐすことから学習は始まる。
「いのちの色ってブルーちゃう?」「え? 気分がブルーなん?」「俺はゴールド!」「スゴイね」
プチハッピーはもっと盛り上がる。
「お母さんが買ってきた柔軟剤がめっちゃ気に入った」
「シャープペンの芯が一回も折れずに、テストも心が折れずに終わった(笑)」
そうやって「幸せって何だろう?」をイメージさせながら、徐々に「大切ないのちを守るためにどうするか」という内容へ。ストレスとは何か、ストレスの対処法も挙げさせる。
「寝る」「うたを歌う」「ゲームをする」「モノを壊す」などさまざま挙げられる。そして、「いのちの危機を乗り越えるために」「いのちの危機を支え合うために」といった核心部分に入るが、実に自然な形で、生徒たちは構えることなくさまざまなことを話し合うようになる。危機にある友達が安心できる対応を、ロールプレーで体験するときは、担任たちも参加していた。
阪中さんによるプログラムの大きな特徴は二つ。一つは「いのちは大切」などの価値観を押し付けないことだ。
「五感を通じていのちについて考えてもらうのが狙いです。自死遺児や自傷行為をしてしまう子などは、『いのちを大切にできない自分はダメな存在』と自分を責めてしまう恐れがあります。そうではなくても生きづらさを抱えている生徒の気持ちに寄り添いたい」
もう一つは、グループワークを重視していることだ。生徒たちは自由に意見を出し合うブレーンストーミングやロールプレーなど、集団活動を伴う体験的な学びを通して「いのちを守ること」への考えを深めていく。
「自殺のキーワードは“孤立”で、自殺予防は“絆”から始まると言われています」(阪中さん)
●授業前後で変わる生徒
参観したクラスでは、授業の前と後で明らかに変化が見られた。
授業後のアンケートでの「学んだことや感じたこと」(自由記述)の一部を抜粋してみた。
・自分の周りにたくさんの応援団がいることに改めて気づいた。
・つらいとき相談できるのは信頼できる人なので、そんな人を増やしたい。
・思春期の特徴がわかって少し安心した。
無論「誰かにきちんと相談できるかわからない」と不安をのぞかせる生徒もいるが、こういった本音やサインを受け取ることができるのも、授業の大きな意義だろう。