東京五輪で新たなヒーローが現れる?(※イメージ)
東京五輪で新たなヒーローが現れる?(※イメージ)
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 奇跡の瞬間を見ようと集まった人々は、通路にまであふれた。席に座っていた観客も「その時」が近づくと次々に立ち上がる。聞こえてきたのは「ウサイン、ボルトー!」の場内アナウンス。「ウォー」という地鳴りのような歓声がそれに応える。

 すぐ隣の人の声も聞こえないほど、スタジアム全体が高揚していた。これが五輪のハイライト、陸上男子100メートル決勝に用意された舞台だ。

 ファイナリストの8人がスタートラインに立つと、どこからともなく聞こえてきた「シーッ」の声。一瞬の静寂の後、号砲が鳴った。

 ボルトはスタートでは出遅れたが、ぐんぐん加速して他の選手を一気に抜き去り、五輪史上初の3連覇。異次元の速さは、まるでスローモーションを見ているかのような錯覚さえ引き起こした。ボルトと同じ組で準決勝を走った山縣亮太(24)は、ツイッターで悔しがった。

「もう少しであの決勝の舞台に立てたのか……」

 日本男子陸上短距離界にはいま、逸材がそろっている。高校3年で日本歴代2位の10秒01を出した桐生祥秀(20)、ロンドン、リオと五輪2大会連続で準決勝に進出した山縣、そして今年6月の日本選手権で2人の争いに割って入り、優勝したケンブリッジ飛鳥(23)。この3人全員が、リオを経験したうえで東京を迎える意味は大きい。

「9秒台への夢」は持ち越されたが、それぞれに学んだことがある。

 2度目の五輪に挑んだ山縣は、「トップスピードが手前にずれていた」という予選の反省点を修正し、準決勝で自己新の10秒05。これまでも理詰めで記録を伸ばしてきた。

「自分のスタートと中盤の走りが、ある程度は通用するという手ごたえがつかめた。世界との距離は確実に縮まった。ただ、このタイムでは決勝には残れないこともわかった」

「イメージ通りに走れた」というケンブリッジは10秒13で予選を突破したが、翌日の準決勝では持ち味である後半の伸びがなく、10秒17。緊張したわけではない。「今の自己ベスト以上の力を出さないと決勝には進めない」という焦りが、走りを狂わせた。ケンブリッジは言う。

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