きわめつきは、大ヒットしたドラマ「半沢直樹」の主人公の妻の半沢花。原作では広告代理店で働く設定だが、ドラマでは専業主婦を上戸彩が演じた。女性ウケは度外視し、「男が『この奥さん、わかっているな』と思うようなキャラクターにした」(福澤克雄監督)のだという。夫にハッパをかけ、奥様会で情報収集する健気さが共感を呼び、『半沢直樹の妻力』という本も出た。半沢を演じる堺雅人の妻、菅野美穂も「仕事をセーブして朝食を作っている」「私服をコーディネートして夫を改造」などと称賛されている。
■専業主婦は特権階級
武蔵大学教授の千田有紀さん(家族社会学)は、最近の「良妻ブーム」は、昔ながらの性別役割分業への回帰とは異なる現象だと指摘する。
「昭和の頃はそこそこの稼ぎのサラリーマンでも何とか体面を保つ生活ができたが、終身雇用制度が崩壊した今、妻が働かずに済む家庭は裕福な特権階級となった。専業主婦になれることの相対的な価値が高まり、そこで選ばれる女性は優れていなければならない、という新たな規範が生まれています」
夫を立て、陰ながら支える「デキた嫁」は新しい理想形なのだ。が、現実は厳しい。
広告会社に勤める男性(41)は専業主婦の母親に育てられたため、妻となる女性にも妊娠したら仕事を辞め、子育てが落ち着いてからフリーランスなど家庭重視で働いてほしいという。合コンでは、礼儀や好感度などの「良妻偏差値」を必ずチェックするが、理想の女性にはなかなか出会えない。
男性からみた理想に違和感を覚える女性も少なくない。自動車会社に勤める結婚5年目の女性(33)は言う。
「仕事での評価がいくら高くても、結婚すれば嫁としての出来で評価されてしまうなんて。淳の妻もただニコニコ従順な嫁キャラで評価されていただけ。彼女の趣味や経歴といった個性は黙殺されていました」
「良妻」を仮想敵にしているのは、専業主婦の妻がいる男性と婚外恋愛中の既婚女性(36)。SNSで彼の妻を突き止め、こっそり投稿をのぞく。
「手の込んだ食事の写真がアップされていると、その材料費の10倍はするディナーを私と楽しんだのよね、と優越感に浸ったり、作ったのは自己顕示のためだよね、と突っ込んだり。彼との交際はもはや、良妻に女として勝てるかどうかの戦いです」
コラムニストの深澤真紀さんによると、「あの女は演技している」「絶対に離婚する」などと突っ込みながら苦しくなっている女性たちは、「女には女の正体がわかるんだ」という呪いにかかっているという。