帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
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※写真はイメージです  (c)朝日新聞社
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 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「心の余裕」。

*  *  *

【ポイント】
(1)心に余裕を持つとは、どういうことなのか
(2)酒はほろよいに飲み、花は半開を見るのがいい
(3)ふとした情景にこの世の真実を感じる

 これまでは休むことなく頑張ってきた、だから人生の後半は余裕を持って生きたいと思っている人は多いのではないでしょうか。

 とはいっても余裕を持ってナイス・エイジングしていくために、まず必要なのはお金です。これは間違いのないところでしょう。ところが、これについて私はまったく自信がないのです。病院を建て替えたときの借金をいまだに抱えていますし、私の貯金通帳はいつも底をついています。まあ、「宵越しの銭は持たぬ」というタイプなので、それでいいのですが。

 そこで今回お話ししたいのは、お金を別とした心の余裕です。心に余裕を持つとは、どういうことなのでしょうか。

 貝原益軒は『養生訓』のなかで「万事が十分に満たされて、何も付け加えることができなくなった状態は心配の始まりである」(巻第二の40)と説いています。さらに「古人も『酒はほろよいに飲み、花は半開を見るのがいい』といっている」と続きます。酒は十分に飲むと体を壊すし、花は十分に開くと花心がなくまもなく散ってしまうというのです。

 なるほど、益軒のいう酒と花の楽しみ方には余裕があります。心に余裕がなければ、酒をとことん飲んで、花も満開こそが一番だと思ってしまうのではないでしょうか。

 私が心の余裕で思い浮かべるのは陶淵明の五言古詩です。酔って気ままに作ったという代表作の「飲酒」の第五首(後半)は次のようなものです。

 采菊東籬下 悠然見南山

──東のまがきの辺りで菊を摘み採っていると、ふと遥か遠くに南山の姿が目に入る。
 山氣日夕佳 飛鳥相與還

──遠くかすむ山の景色は夕暮れにいっそう美しく、飛ぶ鳥は連れだってねぐらに帰っていく。

 此中有眞意 欲辨已忘言

──こうした情景の中にこそ、この世の真実なるものがある。それを言葉で言い表そうとしたものの、もはやその言葉を忘れてしまった(『心を癒す「漢詩」の味わい』八木章好著、講談社+α新書)。

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