2020年東京五輪で活躍が期待される選手を紹介する連載「2020の肖像」。第2回は、きょうだい出場を目指す柔道男子66キロ級の阿部一二三(22)と女子52キロ級の詩(19)。正式競技となった1964年東京五輪から半世紀。日本発祥の柔道が母国の五輪に戻ってくる。金メダル量産の期待がかかるお家芸のなかでも、2人は注目の的だ。苦境に立つ兄、順風の妹。果たして。朝日新聞社スポーツ部・波戸健一氏が2人の関係性や強さの秘密を綴る。
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重苦しい記者会見だった。
世界選手権2日目が行われた8月26日の夜、東京・日本武道館。この日戦った男子66キロ級と女子52キロ級のメダリストたちが壇上に並んだ。中央には2年連続で世界女王に輝いた詩が座る。重い体をひきずり、首から銅メダルをさげた一二三が詩の左隣に腰掛けた。世界王者から陥落した兄の右目は、試合中の激突でボクサーのように赤黒く腫れていた。
アゼルバイジャンであった昨年の世界選手権。21歳の兄と18歳の妹が成し遂げた「きょうだいV」によって2人は世界の注目の的になった。国際柔道連盟は公式サイトで「柔道史に新たな一ページを開いた」と快挙を紹介したほどだ。
それから1年。一二三は準決勝で丸山城志郎(26)に延長3分46秒で技ありを奪われ、2020年東京五輪の代表を争うライバルに痛恨の黒星を喫した。その後の3位決定戦に勝って涙ぐんだ姿は、圧倒的な強さを誇っていた1年前の姿からはほど遠かった。
会見では、まず詩に質問が飛んだ。
「あいにく、お兄さんが金メダルを取れなかった。感想を聞かせてください」
詩は淡々と語った。
「2人で優勝するというのが一つの目標でもありました。お兄ちゃんが負けてしまってすごく悔しいんですけど、また2人で頑張っていきたいなと思います」
一二三からは、普段の強気な言葉が一切出なかった。
「妹が優勝で僕が3位。きょうだいで優勝できなくて、兄として残念、情けないと感じます」