「結局、サービスやコンテンツが豊富にあっても、高齢者自身が安心かつ納得できなければ利用は広まらない。そうした心理的抵抗や防御を解くのは容易ではありません」
高齢者が自身の性的欲求を抑圧しやすいのは、近年まで高齢者の性がタブー視され、受容できる環境が社会に整えられていなかった一面もある。坂爪さんは、「高齢者の性欲は『不潔』とみなされ、介護福祉の領域でも長らく黙殺されてきた歴史がある」と指摘する。
「国による高齢者福祉政策が開始された1963年当時、高齢化率はわずか6%程度で、高齢者はまだ社会の“少数派”でした。ところが現在までに平均寿命は男女とも約15年延び、高齢化率は28%を超えた。そうした中で、性的欲求を満たすことが高齢期のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)の向上に重要であることが、90年代後半から次第に認識されるようになった」
人生100年時代。65歳を迎えても残り35年間。余生というには長すぎるこの期間の性生活をどう充足させるかは、全員に共通する重要な課題といえる。
一方で、課題解決を図るために、公的サービスを投入することは現実的ではない。例えば、スイスやフランスには「性介護士」という高齢者等の射精介助を行う職業があるが、その利用は100%自費であり、風俗との線引きも難しく、いまだに誤解や偏見も多い。
「こうしたサービスの必要性についてコンセンサスを得るのは難しい。現状は民間のサービスに頼るほかありません」(坂爪さん)
そのヒントになるかもしれない会社が新潟県にある。
「ケアセンターすずらん」。ケアセンターといっても“施設”ではなく、主に中高年を対象にしたデート業者だ。食事や買い物、通院などに女性スタッフが同伴するサービスを提供している。
届け出上は「無店舗型性風俗特殊営業」に分類されるが、射精介助(ハンドサービス)はあくまでオプションの扱いで、つけなくても利用可能。料金も90分で6千円(お試しコースの場合)と、利用しやすい価格に設定されている。