日本性科学会セクシュアリティ研究会代表で、共著『中高年のための性生活の知恵』(アチーブメント出版)を今年5月に上梓した荒木乳根子さんは、中高年がセックスレスになる要因に「男女の身体的性差がある」と指摘する。
「男女ともに50歳前後から性欲は減少していきます。ただし、男性の場合はゆるやかに下がるのに対し、女性は閉経を機に女性ホルモンの分泌量が大幅に減り、性欲もがくんと落ちる。加えて50代後半になると、性交痛などの性障害も強まるため、夫とのセックスを避けがちになるのでは」
このような夫婦間の“性欲ギャップ”は、アンケート調査の結果でも明らかだ。日本性科学会が12年に実施した調査では、60代、70代の男性のうち約4割が「相手(妻)の欲求が自分より乏しすぎる」と回答。一方で、60代女性の26%、70代女性の11%が「相手(夫)の欲求が自分より強すぎる」と回答している。
「加齢によるホルモン減少で性交痛が生じるのは自然なこと。ですが、女性の中には病気ではないかと心配して病院に来られる方もいます。一方で男性も、急に妻がつれなくなったと不満を持つ方も多い。男女ともに、正しい性知識を学ぶ必要性を感じます」
確かに、こうした男女の性差や身体的変化は、セックスレスを招く要因となる。しかし、ここ十数年でセックスレス夫婦の割合が増加している理由にはならない。レス化が進む背景には、加齢による体の変化に加えて「夫婦の関係性の変化もある」と荒木さんは言う。
「十数年前と比べて、現在は共働きの夫婦が格段に増えました。働く女性が増えたということは、それだけ疲れて家に帰ってくる女性が増えたということ。また、社会進出にともない女性の権利意識も向上し、夫からセックスを誘われても自分が望まない場合は、はっきりと『NO』と言う女性も増えていると感じます」
荒木さんが指摘するとおり、00年当時は「専業主婦世帯」が916万世帯に対し「共働き世帯」は942万世帯と、ほぼ半々の割合だったものが、18年には専業主婦世帯が600万、共働き世帯が1219万と、2倍以上の差が開いている(労働政策研究・研修機構資料から)。