昔であれば、妻側がある程度夫の都合に合わせることもできたかもしれないが、フルタイムで働くようになればそんな余裕はない。仕事から疲れて帰ってきて、食事や家事を済ませば、あっという間に寝る時間だ。
さらに加齢により性欲が落ちていけば、女性はなおさら夫とのセックスを苦痛に感じるようになるだろう。
一方で、女性が経済力を身につけ、家庭内での立場が相対的に強まったことで、夫側にも変化が起きている。
「セックスレスに悩む男性の話を聞くと、妻が応じてくれないという方がいる一方で、妻を性的対象として見られなくなったという方も相当数います。どうやら、妻側が生活をリードしてあれこれ指示を出すようになると、妻に性欲が湧かなくなることがあるようです」
こうしてみると、高齢期には自然と性欲が枯れてプラトニックな関係に戻るというのは、見せかけだけの話であることがわかる。夫も妻も、多くの人が、心の奥底では性に対する不満や悩みを抱えているのだ。
では、どうやってそれらを解消すればいいのか。
荒木さんは、「セックスを成功させることより、加齢による体の変化に合わせて“セックス観”を変えていくほうが大事」と語る。
「特に男性は、『勃起や射精ができないと恥』と考える人が非常に多い。そうしたプレッシャーから、妻とのセックスを重荷に感じてレスが進んでしまうこともある。『セックス=挿入』という考え方に縛られすぎているんです。でも本当は、裸で抱き合ったり、愛撫したりするだけでもいい。肌を重ねることで、互いに『愛されている』という実感を得ることがいちばん大切だと思います」
さらにセックスの満足度を高めるには、互いにしてほしいこと、してほしくないことをきちんと相手に伝える努力も必要になる。
「ただ、夫婦といえども性的な要望をいきなり伝えるのは難しい。だから日頃の会話から、自分の内面を素直にさらけ出す習慣を身につけたいですね」
荒木さんが勧めるのが「アイメッセージ」という会話の方法だ。例えば、「ごみを片付けて」と相手(ユー)に指示するのではなく、「ごみを片付けてくれると(私は)嬉しい」と私(アイ)の感情をベースにして話す。こうすれば相手も嫌な気持ちになりにくいし、自分もストレスをためずに済む。