ここ70年間で、日本人の平均寿命は男女ともに25年以上延びた。長寿化の中で近年浮かび上がってきたのが、高齢者の「性」の問題だ。夫婦間のセックスレスで人知れず悩む高齢者が増えている。ライター・澤田憲氏が現状の課題と解決策を取材した。
* * *
「妻とセックスしなくなったのは4~5年前。ちょうど仕事を辞めた後ですね」
奈良県在住の70代男性が、セックスレスになった当時のことを教えてくれた。
男性は9歳年下の妻と二人暮らし。60歳まで役所で勤め上げた後、民間企業に5年間勤め、65歳で定年退職した。現在は、大阪にある大学の客員研究員として、月に数回、大学に通い論文の執筆に励む日々を過ごしている。
「仕事を辞めてからしばらく留学していたので、その間もセックスはしていませんでした。ただ日本に帰ってきてから、病気で体調を崩したのが決定的でしたね」
一昨年、男性は間質性肺炎に罹患。症状が重く、2カ月ほど寝たきりの生活だったという。その後軽快し、通院治療しながら日常生活を送れるようにはなったが、妻との関係は元気なころと同じようにはいかなかった。
「病気で体重が10キロほど減りました。そんな状態だから妻とセックスする気も起きず……。気づいたら妻をそういう対象として見られなくなっていました」
男性の妻は、してもしなくてもどちらでもいいと思っていたようだが、男性は「本当にこのまま関係がなくなっていいのだろうか」と人知れず悩んだという。
昨今、この男性のように、夫婦間のセックスレスに悩む中高年は多い。
医師や臨床心理士らで組織される日本性科学会が、2000年および12年に実施した「中高年のセクシュアリティ調査」によると、40~70代の全ての世代で、男女ともにセックスレスの割合が増加しているという。特に顕著なのが40、50代で、12年間で男性は2.5~2.7倍、女性は1.8倍に増えた。
なぜ、これほどセックスレス化が進んでいるのか。