パン屋をつくったのは、雇用を生み出す仕組みをつくるためだ。
「学校をつくっても、そこに教育者がいなければただの箱ですから」
彼らだけで運営ができるようになったら、「最後はお店ごとプレゼントするつもり」で、それまでは、材料費から彼らの給料までのすべてをサポートする。その額、毎月20万円。
小谷さんは8年前、夫と死別。夫の財産の一部は夫の出身地である新潟県の小・中学校、それからフィリピンの村にも贈り、夫の名前を付けた文庫を立ち上げた。寄贈式には、日本から義母とともに参加した。
義母は100人の村人を前に、「どうか皆さん、たくさんの本を読んで、夢をもって生きていってくださいね」と語りかけていた。
「42歳の息子を失った母に、彼の生きた証しが残せた。母にとってもいいことをしたなと思いました」
タレントで歌手の故やしきたかじんさんは遺産を大阪市に寄付するとの遺言を残し、2億円の寄付をし、「紀州のドン・ファン」こと和歌山県の資産家、故野崎幸助さんの遺言状にも「全財産を田辺市に寄付する」と記されていたことが伝えられたが、いずれのケースも本人の没後、トラブルになっており、着実な準備が求められる。
遺贈寄付に詳しい樽本哲弁護士によると、遺贈の場合、遺言書作成は必須だ。自筆証書遺言よりも、公証役場で作成する公正証書遺言が望ましい。
そのうえで、それを実現させる「遺言執行者」を指定しておくこともポイントだ。「相続人が相続財産から寄付をする場合は、故人が亡くなってから10カ月以内に、寄付税制の対象となる団体に寄付をして申告をすれば、寄付した財産は一定の条件の下に相続税が非課税となる特例があります」
最後に、遺贈へのステップを聞いた。
遺贈寄付に関する著作があるライターの星野哲さんは、「恩返ししたいと思う人や団体といった対象はたくさん思いつくでしょう。お世話になった大学でも福祉でも。そういうところに寄付をすればいいのではないでしょうか。寄付に金額なんて関係ありません。1万円であろうが、10万円であろうが託す意味は変わりません。難しく考えず、社会への恩返しと考えればよいでしょう」と言う。