個人が生前に遺言書を作成しておき、死後に専門家によって実行される場合と、相続人によって相続財産の一部(あるいは全部)が寄付される場合がある。後者の場合、必ずしも遺言書がなくても、相続人により決定される。
こう説くとおカタイが、つまり、人生最後に残すお金が自分が選んだ手段で使われることだ。自分以外の人のために。そこに喜びをおぼえる人は多い。
いまは亡き西田房子さんは、オーケストラと阪神タイガースが大好きで、日本センチュリー交響楽団の大ファンだった。「楽団の発展のために」と信託銀行を通し、2億円の遺贈をした。「ご存命のとき、寄付の意思表示をされました。弦楽器メンバー4人でお住まいまで行って『六甲おろし』を演奏しました」(公益財団法人「日本センチュリー交響楽団」専務理事で楽団長の望月正樹さん)
他界した父親がすごく勉強好きだったが、貧しくて進学ができなかった。だからあるNGOを通して父親の遺産でラオスに中学校を建てた、という女性もいる。「奨学金を送ったり、中学校を建てたことで、なんか自分もすごく幸せな気持ちで暮らせているという感じがしています」
「理解のある人からの遺贈は本当にありがたいものです」と言うのは、「日本補助犬協会」の朴善子さんだ。盲導犬、聴導犬などの補助犬を障がい者に貸与する公益財団法人の代表理事。
忘れられないのは、視覚障がい者を雇用していた会社経営者が死後に寄付してくれた1千万円だ。
「活動は寄付が頼りで、非常に不安定。利用希望者からの申し込みがあっても、寄付が集まらないとお断りしないといけない。この状況をよくご存じの方でした。こういった手段で社会参加できるんだ、と職場で日々感じられていたようです」
小谷みどりさん(50)は私財を投入し、カンボジアにパン屋をつくり今月オープンさせた。のちに寄付するため、これも長い目で見れば遺贈だ。
店の名は「U&ME」。小谷さんはスタッフから「マイマム」と呼ばれる。小谷さんがくたびれると、懐も寒いのに市場や屋台でコオロギの素揚げや甘い飲み物などを買ってきて食べて、とすすめてくれる。時に困惑しながらも楽しい。「私は子どもがいないので、20代のかわいい息子や娘が何人もできたみたい」(小谷さん)