■没イチの落とし穴(2) 遺品をどうするか
何十年も故人の部屋やモノに手を付けられず、遺品はそのまま、という人も多いだろう。
「故人の洋服やモノにうずもれて生きていくのは精神衛生上良くないと私は思います。過ぎ去ったことにひきずられず次の一歩をまずは踏みだすべき。そのためにも遺品整理は大事だと思うんです」
こう話す玉置さんも、遺品整理には悔いが残る。夫の持ち物を捨てすぎてしまった。目に触れると気持ちがざわざわしたからだ。
「四十九日が過ぎたころ、古伊万里のコレクションとかスカジャンとか親のかたきみたいに全て捨てました。今思えばとっておけばよかったなというのもあるんですよね。時が経てば気持ちは変わる。置いておくのがつらいものは、しばらくトランクルームなどに預け、2、3年経って心が落ち着いたころに向き合えばよかったと思います」
処理に迷っているモノもある。
「写真家だった夫が撮りためたフィルムデータです。火事にあっても、これだけは守れるようにと、夫は金庫を買って保管していました。ただこれらをどうしたらいいのかまでは聞いていなかったから」
いずれ写真集でも作れたらいいな、と考えている。
「老後の楽しみ、かな」
■没イチの落とし穴(3) 墓をどうするか
墓の問題もある。散骨に宇宙葬、樹木葬や合葬墓など、埋葬手段は多々ある。最近は墓じまいをする家も多いが、没イチ同士で墓の取り合い話が出たケースもある。没イチ歴10年の智子さん(仮名)に、義理の妹である真理さん(仮名)がこんな話を持ちかけた。
「兄さんが眠る墓を私たち家族に譲ってほしい。あなたたち一家も入っていいから。私が墓守になるから」
智子さんの夫が眠る墓には、真理さんの実の両親と、真理さんの子どもが眠っている。とはいえ、結婚した身であるのになぜそんな非常識なことを言いだすのか。智子さんは不思議に思い即、断った。
「後で知りましたが、真理さんの夫が危篤だった。墓がないのを心配したのでしょう。息子の代以降で、墓の管理がややこしくなる。断って正解です」
墓はいらないという人も。
小谷さんは夫の遺骨の半分をハワイの海にまき、残りの半分は実家に置いている。火葬場で夫の両親と遺灰を折半したからだ。
■没イチの落とし穴(4) 世間の目とどう向き合う
悲しみを乗り越えて、前向きに明るく生きているときに受ける「世間の冷ややかな目」も落とし穴。
「特に女性の没イチが出歩いていると、『あの人ご主人が亡くなったばかりなのに、もう遊び歩いている』となる。『未亡人は悲しそうにしていろ』という近所の目、社会の圧力が、意外と負担になるんです」
小谷さんは声を大にして言う。
「なんで生きている人が、死んだ人に縛られないといけないのか」
同情はありがたいが、過剰な「かわいそうですね」が没イチを傷つけることもあることを、周囲も知っておくべきなのかもしれない。(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日 2019年2月22日号より抜粋