配偶者と死別した経験を持つ人を指す「没イチ」。昨今、広まりつつあるこの言葉は、第一生命経済研究所主席研究員だった小谷みどりさん(現・シニア生活文化研究所所長)による造語だ。没イチになったら、どんな点に気をつければいいのか。
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■没イチの落とし穴(1) 何がどこにあるのかわからない
「今の私に足りないものはない」と言い切るのは、没イチ歴8年の玉置憂子さん(54)。
7年ほどの闘病生活の末、夫はがんで逝った。その後、出家した。現在は現役の看護師で僧侶だ。見送った当初は、幼子2人を抱え悲しみのどん底に。しかしめそめそしていても何も始まらない。人生の再出発を図ろう。玉置さんは「家のリフォーム」を決意。外壁も含め大がかりな修繕をしようと見積もりを取ったが、そのままに。しかし、四十九日を終えたある日のこと。
「一人で夜中に書き物をしていたとき、突然カサッと音がして雑誌が落ちてきた」
雑誌を拾うとその隙間から封筒がぱらり。見ると生命保険会社の名前。翌朝、玉置さんが封筒にあった番号に電話すると、夫が生前に加入していた生命保険だったことが判明した。
「夫が加入していたなんて全く知らなかったので驚きました。何も言わなかったのです」
偶然にも夫の死亡給付金がリフォーム代の見積額と同額だった。「こんなことって、あるんですね」
玉置家はそのお金でリフォーム。レイアウトも大きく変わり、壁紙も一新した。リフォーム後、2階は息子たちの部屋になった。
「夫の死後、私は夫の仕事部屋だった2階には上がれなかった。でも今はできる。環境を変えるって再出発に大切なことだと思いました。カーテン一つ替えるだけでも違うはず」
もし、偶然にも生命保険の資料が落ちてこなければ玉置さんは夫の生命保険の加入すら把握せず、死亡保険金を受け取れなかった。
さらに、
「リフォーム前に整理をしていたところ、たまたま長男が本と本の間から夫のへそくりを見つけました。隠し場所まで言わなくてもいいけど、どこにへそくりがあるのか、それぐらいはメモで残してくれたほうが、残された人が困らない(笑)」
玉置さんは夫の死をきっかけに自分が亡くなった後に子どもたちが困らぬよう「このファイルを見れば何でもわかるから」というエンディングノートを作ったという。そこには保険証書や不動産の登記簿謄本、マイナンバー、かかりつけの病院名や職場関係の連絡先等が記されている。